「神の国アメリカの論理」 上坂 昇(明石書店)



 アメリカが宗教的な国であることはよく知られている。先進国の中では随一であろう。成人の82%が神を信じている。日本とアメリカの大きな相違は、仏教とキリスト教の違い以上に、日本が世俗的な社会であり、アメリカが宗教的な社会であるところに存在するともいえよう。
 上坂は、アメリカの宗教右派によるイスラエル支援、人工妊娠中絶反対、そして同性結婚の否認という三つの現象を扱いながら、アメリカがいかに宗教的な国であるかを描こうとしている。

 本書の最大の特徴は、各宗派の立場を、聖書に立ち返って仔細に検討しているところにある。例えば、ジョン・ヘイギーという牧師は、「イスラエルのために団結するキリスト教徒」の指導者であるが、イスラエルを支援するのはキリスト教徒の義務であると考え、アメリカにおいてイスラエルを支持する活発な政治活動を展開している。歴史の長きにわたって、キリスト教徒とユダヤ教徒は反目し合ってきたのであるから、このような現象は多くの読者にとって驚きであろう。

 ヘイギー師がこのような運動を起こしたのは、聖書が「神はイスラエルを愛する人を愛し、イスラエルを呪う人は神に呪われる」と告げていると信じているからである。概して宗教右派は、イエスの再臨の条件として、イスラエルの民であるユダヤ人が聖地イスラエルに帰還しなければならないと信じている。彼らは、キリストの再臨がある日突然起こり、千年王国が始まるとする(前千年王国論)。そしてイスラエルの復活は、その前提とみなされている。

 上坂は、中絶および同性結婚の問題についても、同様に聖書の解釈と関連づけつつ、さまざまの宗派による解釈の異同に目配りしながら、掘り下げて論じている。
 わが国では、アメリカの宗教右派についての研究はこれまでも存在してきたが、やや表面的な叙述が多かった。その意味で、本書は、宗教右派の政治的行動の背後に存在する聖書の解釈と神学的論理まで踏み込んで分析しており、高く評価できる。
(久保文明:東京大学教授)

(朝日新聞 2009-2-1)



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