「銃・病原菌・鉄」 ジャレド・ダイアモンド(草思社)



 16世紀、スペインのピサロと少数の部下が巨大なインカ帝国を征服できたのは、銃器と鉄製の武器、そしてヨーロッパから持ち込んだ病原菌が要因だった。なぜインカ帝国には武器や伝染病に対する免疫がなかったのか。2000年の翻訳版刊行当時も話題になったピュリツァー賞、コスモス国際賞受賞作が、昨年11月からまた、重版のペースを速めている。大学で学生たちへの推薦書として取り上げられるなどし、昨今は特に若い読者が増えているという。

 世界の各地の文明発展の道筋はなぜ異なるのか。それを生物生態学、地理学、考古学、文化人類学などの知見を盛り込んで、壮大なスケールで解明していく。「文系・理系を超えた読み物となっています。また、なぜ他の文明が西欧文明を征服できなかったのか、という逆転の発想が非常にユニーク」と担当編集者の藤田博さん。

 幅広い知識、偏見のない視点、語り口の巧みさでぐいぐい引き込む。そして文明の発達の違いは自然環境の要因によるもの、という結論にたどり着く。栽培しやすい農作物や、家畜として便利な動物の有無が技術の発達や政治体系の確立、そして病原菌病に対する免疫の獲得に影響を与えたのだ。

 力強く主張されるのは、民族の能力には優劣がない、ということ。それを細部まで丁寧に検証し、実証しようとする著者の誠実な姿勢が心に残る。「人はみな同じ」という教えを、私たちはよく考えずにただうのみにしているだけではないのか、実は物質的に豊かな国の人々は、そうではない国に対して優越を感じてはいないか。現代人の認識が、改めて間われているように感じた。

 同じ著者の『文明崩壊』(草思社)も売れ行き好調。こちらは栄華を極めた社会の衰退を個々の事例別に検証。文明の発達を解いた本書と対にして読むのも面白い。
(瀧井朝世・ライター)

(朝日新聞 2009-11-22)



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