「葬式は、要らない」 島田裕巳(幻冬舎新書)



 近頃のはやりモノには「団塊世代」特有の死生観が色濃く反映している。ひとつは少し前の大ヒット曲「千の風になって」。もうひとつは「写経」である。
 「私のお墓の前で泣かないでくたさい」という「千の風になって」(作詞者不詳)は、死後、風になって遍在することを夢想するアニミズム的内容だ。ここからは「家」に縛られた墓を否定し「個人」を強調する傾向を見出すことができる。一方の写経は、特定宗派に限られない般若心経の流行でもあり、これもまた個入主義的な宗教の在り方を示している。

 日本の葬儀・墓とは、かつての家制度と密接に結びついたものであった。だが、その構図が崩壊しつつある現代においては、齟齬が生じてきている。『葬式は、要らない』は、こうした現代の葬式・墓の在り方を問うものである。

 白州次郎は遺書に「葬式無用」「戒名不用」とだけ記したという。こうしたドライな合理主義に同調する現代人も少なくないはず。実際、葬式・埋葬ではなく散骨を望む人も増えている。だが、現実には葬式費用は高騰している。平均費用は200万円を超えた。日本の葬式は世界一高いのだ。そこには「世間体」という非合理に決まる「相場」や、高い料金をとる「戒名」などが立ちはだかっている。本書は、こうした葬式にまつわる事象の歴史的背景や変遷を遡り、現代的な葬式像を提案する。

 著者である宗教学者・島田裕巳の主著『創価学会』は、高度成長期に故郷を離れた都市移住者たちと宗教の問題を捉えたものであった。本書のターゲットは、まさにあの時代に地方から都市へと生活を移した中心の団塊世代。この世代が死を意識する年代に差しかかった現代を「葬式」という視点から捉えた本書は「都市化時代の宗教」という著者の中心テーマに正面から挑んだものといえるだろう。

(速水健朗:フリーライター)

(朝日新聞 2010-3-28)



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