『日本中枢の崩壊』 古賀茂明(講談社)



 震災であらゆる状況が変わったように錯覚するが、以前の重要問題が消えたわけではない。
 本書は公務員の「天下り」や「渡り」を追放する公務員制度改革の失敗を、内部の官僚側から記したものである。
 公務員制度改革は「消えた年金」問題に翻弄されていた安倍晋三政権時、起死回生の策として掲げられる。省庁からの強い抵抗を受けたこの政策は、国民の支持と渡辺喜実行政改革担当大臣(当時)の情熱によって基本法の成立にこぎつけた。

 本書の著者は、この成立後に組織された改革推進本部事務局の幹部。しかも渡辺大臣が、反対勢力に抵抗するための改革の旗手として肝いりで抜擢した切り札的存在である。
 だが著者は、挫折の道を歩む。福田康夫首相時代の内閣改造によって渡辺大臣は退任。改革推進本部は各省が送り込んだ妨害派に主流の座を奪われ、事務局審議官を解かれた著者は、経産省の閑職に追いやられた。

 この政策は、のちの麻生太郎内閣の時代にも再び起死回生の策として国会に提出されるが、今度は当時野党の民主党によって妨害される。政権奪取後のカードとして「天下り追放」を横取りした民主党だが、その着地点は改悪に近い形に骨抜きにされたものだった。その証拠に、今年に入っても元資源エネルギー庁長官の東電への天下りが行われているのだ。
 本書が挟るのは、省益しか顧みずサボタージュや抜け道づくりによって、政策を有名無実化してしまう官僚の手法である。

 現状、国民の政治への不満は、何もしない政府に向くが、問題は何もさせない官僚機構である。政権交代が、その改善策ではないというのが不幸である。むしろ上に乗る政府だけがごろごろ入れ替わる状況が、土台の腐食を覆い隠してきたのだから。

速水健朗(フリーライター)

(朝日新聞 2011-7-17)



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