『働かないアリに意義がある』 長谷川英祐(メディアファクトリー新書)



効率追求の社会に刺さる論
 「パレートの法則」というのがある。商品の売上げの8割は、上位2割のベストセラーによって生み出されている。そういう法則だ。会社の利益の8割は、優秀な上位2割の社員が生み出している。下位2割の社員は、ほとんど仕事をしない。
 この法則が、実はアリの社会にも存在しているという。その理由を実に明快でわかりやすく解説したのが本書。働きアリの7割は休んでいるし、2割にいたってはずっと働かない。怠慢な2割を取り除いても、今まで働いていた残りのアリのまた2割が働かなくなる。

 なぜか。本書によれば、交替要員のためなのだという。皆がいっせいに働いていると、同時に全員が疲れてしまう。誰も働けなくなる時間が生じてしまって、巣に致命的なダメージが生じてしまう。巣を維持するようにしている合理的なシステムなのだという。なるほど!
 本書のキモは、アリの興味深い生態を描くごとではない。アリの世界の話をグローバリゼーション経済の問題に結びつけてしまったのが、著者の巧みなところである。この戦術が、地味な生物学の本をベストセラーへと押し上げてしまった。

 本書は書く。「みんな働く意欲は持っており、状況が整えば立派に働く。それでもなお、全員がいっせいに働いてしまうことのないシステムを用意する」
 企業は能力の高い人間を求めて効率を追求し、グローバリズムがその傾向に拍車をかけていると説く。しかし「余裕を失った組織がどのような結末に至るのかは自明」と結論づけるのだ。

 先進国から富が失われ、格差が進行する世界の現状。生きづらさを感じている多くの人たちに、この論は深々と突き刺さったのだろう。アリとグローバリゼーションという、実に見事なマーケティングの勝利である。
 
佐々木俊尚(ジャーナリスト〕

(朝日新聞 2011-7-3) 



目次


inserted by FC2 system