石角 完爾(いしずみ かんじ、1947〜)(千代田国際経営法律事務所代表)





■私がユダヤ教に改宗したもう一つの理由

 私は法律を職業とする弁護士であり、またアメリカの正式な資格を持つ教育コンサルタントである。そして個人的にはアメリカの最新の代替医療を研究している。法律、教育、医学、この3つを歴史的に遡っていくと、3つは1点に歴史の始まりで交わる。それがユダヤ教である。

 ユダヤ教の聖典であるヘブライ聖書は世界最古の医学書であり、法律書であり、そして教育書である。世界で最初に法律を現代の近代法の形に近いものにまとめたのはユダヤ人であり、また、義務教育を最初に制度化したのもユダヤ人である。そして、医学を最初に、呪術師というようなシャーマン的な形ではなく、始めたのもユダヤ人である。

 私は必然的に法律、教育、医学に関わる人間としてユダヤにたどり着いたといえる。これが私がユダヤ教に改宗し、そしてユダヤ人になった理由の一つである。
(2009-8-18)


■何故ユダヤ教徒になったのか
 私はユダヤ教に改宗した理由の一つに倫理価値観の世代間伝承に興味を持ったということがある。

 どういうことかと言うと、ユダヤではユダヤの倫理的価値観、例えば、親を敬う、老人を敬う、社会的弱者を保護する、といった社会的倫理的価値観をユダヤではお祖父ちゃん、お祖母ちゃんがお父さん、お母さんに小さい頃伝承し、そして父母が子供に伝承していく。伝承とは伝え、守らせ、実行するようにするということである。この社会的倫理的価値観の家族間伝承はキリスト教社会でも強力に行われている。おそらくイスラム社会でもそうだと思う。だから、皆さんが旅行されて分かるように、あの乱暴な国アメリカでも老人が来ればバスや電車の椅子は若者がすぐに席を譲る。気付かない若者に対して回りが声をかける。

 一方、日本ではこういった家族内伝承が全く為されていないと思われるので、例えば席を譲るということについては、駅のポスターで貼られている標語だけが伝承の唯一の方法であるためか、若者が席を立つということがあまり行われない。当たり前である。駅のポスターぐらいでは社会的伝承は為されないのである。

 この家族内伝承による倫理観の社会的伝承ということは何も席を立つということだけではない。あらゆる倫理的価値観が日本では家族間で伝承されない。従って、倫理的価値の普及と伝承は全てがお上(おかみ)、つまり役人任せとなってしまっている。誠に世界では類を見ない不思議な国である。

 この社会的伝承が為されていない国はやはり異例な国である。経済的に成功したかも知れないが、こういったことは精神面での、あるいは倫理面での国の未熟さを現し、「先進国の仲間入りといってもGDPの話だけだ」と軽く鼻先であしらわれるのである。それはイスラム圏、ユダヤ圏、キリスト教圏から軽くあしらわれるということである。

 何年か前アメリカのCollegeに行っていた私の娘と日本のある一流企業の会長(70歳台後半)がセミナーの席で大激論をした。私はその会社が私のクライアントであったのでハラハラした。

 論争の発端は娘が「アメリカの学校の授業中ではトイレに行くこともコーラを飲んだりすることもサンドイッチを食べることも先生は全く咎めない。ところが日本の学校の授業ではそういったことを咎める。しかし重要なことは、授業にどれだけ集中するかということではないか。」と言ったところ、その会長が「お前のような議論は日本では通らない。日本では規律ということが重要だ。授業の内容を理解し先生の言うことを集中して聞くということよりもクラスルームの礼儀作法、規律が重要なのだ。」と言ったので大激論になった。つまり日本では礼儀や規律は学校で教えることが前提となっている。

 学校で教えるということは、先生つまり公務員(=国、役人)が教えるということだ。日本人は恐らく今後もあまり倫理的価値観の家族世代間伝承を中心とする宗教を必要としないだろう。それは国や会社という組織が民族性、つまり倫理的価値観の伝承の中心になっているからだ。従って国や会社が宗教と家族に取って代わっている。

 私のように会社に属さない者で海外に長く出る者はどうしても民族性、つまり宗教性が必要となってくる。そうでないと世界では分類外の人間ということになってしまうからだ。私は分類外の人間になりたくはなかった。それがユダヤ教に改宗した一つの理由ではある。
(2009-8-24)

■ユダヤ教徒になって何がどう変わったか? Before and After
 Before and Afterの質問を本の読者からも講演の聴衆の方からも常に受けます。一言で言うと、生活がMuch simpler and much busierになったということです。

 SimplerになるということとBusierになるということが一見矛盾しているようですが、これが矛盾していないのですね。つまり、質素になり、かつ、忙しくなるということは全く矛盾していないどころか、ユダヤ教徒の生活は「Frugal and simple because it is busy.」ということです。

 つまりどういうことかと言うと、多くの方々は可哀想なことに、マスコミに出て来る消費を煽り立てる情報に洗脳されている為にお金を使うことに時間を使っています。その一番良い例がエコ・ポイントです。エコ・ポイントが半減するとか切れるとかという政府の宣伝に乗せられて、別に今すぐ買わなくても良い家電製品を買いに長蛇の列を作っています。また消費を駆り立てられている人々の良い例がグルメ志向です。

 あちらのラーメンが美味い、こちらの店が美味い、あそこの店が5ツ星だ、ミシュランの何々星だ、という情報に溢れ、美味追求の為にお金と時間を使っています。かつ、多くの人々はエコカーだとか3Dのテレビだとか新商品の情報に常に踊らされ、その為に買い替えなくても良い車を買い、別に三次元テレビを見なくても良いのについ買ってしまう。

 ユダヤ人になって要するにFrugalになりSimpleになり、そして忙しくなった。どういうことかと言うと、まずヘブライ聖書及びタルムードを毎日読むことを強いられるのでコマーシャリズム、メディアに溢れるコマーシャル(メディアに溢れる裏にスポンサーの付いた巧妙な物を買わせる仕掛け、これは政府のエコ・システムなども全てそうである。)に全く踊らされることがなくなった。要するに、そういうものを見ない、聞かない、触れない生活になった。

 2番目。学術書も含め新聞、雑誌、How toもの、Know-howものを全く読まない、買わない、触れない、見ない。読む本といえばヘブライ聖書、タルムード、ユダヤ教の学術本ばかりである。従って、書籍雑誌の無駄遣いが全くなくなった。

 3番目。ユダヤ教徒になって外食を全くしなくなった。外で食べることと言えば金曜日の夜のシャバットの後シナゴーグでユダヤ人達と粗末な食事を一緒にすること、そして土曜日のシャバットの終りにシナゴーグで他のユダヤ人達と質素な食事を一緒にすることだけである。異教徒の人と一緒にレストランで食べることは全くなくなった。付き合いで食事をすることもなくなった。レストランで物を食べることもなくなった。だから全て内食であり、かつ、外で食べないからレストランに無駄なお金を払うこともなくなった。

 お酒も全く飲まなくなった。ユダヤ人は毎日祈りを捧げなくてはならないので酔っ払ってはいけないとされている。元々ユダヤ人は異教徒と酒を飲んではいけないので、そのようなチャンスもゼロ。しかも飲むアルコールと言えば、宗教儀式の時に口に1杯程度含ませるユダヤ人の作ったワインのみである。従って、アルコールの為にお金を使うということも全くない。

 つまり、仕事、ヘブライ聖書の勉強、そしてシナゴーグでの宗教儀式の参加、安息日の妻との語り合い、それもヘブライ聖書の話題という生活になった。

 そして、ヘブライ聖書の教えは、数えられるものに幸せは宿らず、神は微笑まないというもの。すなわち、円高がどうとか財務諸表がどうだとか、株でいくら儲かっただとか、ということを気にする毎日の人生を送れば神の祝福は訪れないという教えに従って、そういうものには一切関わらないようになった。つまり総じて言うと、ヘブライ聖書を中心とした生活になったのである。
(2010-11-17)
http://www.kanjiishizumi.com/
 
【略 歴】
 石角完爾(いしずみかんじ、1947年〜)は、日本の国際弁護士。保守派で改宗し、現在ウルトラオーソドックス派(ハバド・ルバヴィッチ)に所属するユダヤ人。千代田国際経営法律事務所代表。スウェーデン在住の日系ユダヤ人。ヨーロッパ(とくに北欧)から見た文明評論・経営評論・教育評論を著述活動の形で行う評論家。

 京都府出身。京都大学法学部を首席で卒業。在学中に国家公務員上級試験(現・国家I種試験)、司法試験に合格。通商産業省(現・経済産業省)を経て、ハーバード・ロースクール、ペンシルベニア大学ロースクールを卒業。ニューヨークの法律事務所シャーマン・アンド・スターリングを経て、1981年に千代田国際経営法律事務所を開設。
 2002年にアメリカの教育コンサルタントの公認資格を取得。イギリスおよびアメリカを中心に教育コンサルタントとして、世界中のボーディングスクールの調査・研究を行っている。
(著書)
「ユダヤ人の成功哲学「タルムード」金言集」2012年(集英社刊)
「だから損する日本人」2011年(阪急コミュニケーションズ刊)
「ファイナル・クラッシュ」2011年(朝日新聞出版刊)
「日本国債 暴落のシナリオ」2011年(中経出版刊)
「アメリカのスーパーエリート教育・全面改訂版」2010年(ジャパンタイムズ刊)
(Wikipedia)



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