眼横鼻直(がんのうびちょく)


 仏教に関心のある人なら経験があると思うが、仏教の本当の教えは何だろうかと歴史をさかのぼっていくと、何がなんだかわからなくなってしまう。キリスト教のように整理されていない。

 ボク自身も系統的に仏教を勉強した訳ではないが、自分なりに仏教というものを考え始めて、たどりついたのが「道元」であった。彼が若い頃に抱いた仏性と修業の問題、中国へ渡っての修業、日本に帰っての布教。道元は本当の仏教を学ぶために、当時としては最大限の努力をしたと思う。

 座禅を中心とする彼の教えは、確かに初期の仏教教団の教えに最も近いかもしれないが、その反面、あまりに厳しすぎて多くの人に受け入れられないかもしれない。ボクも座禅をしたことがあるが、足が痛くてたまらなかった。

 テレビで、究極の味を守り続けている割烹やレストンを紹介する番組がたびたびあるが、店の主人は、たいていガンコで変り者である。しかし、お客様に自分の納得のいく料理を食べてもらいたいという熱意には頭が下がる。金もうけ主義の世の中で、その純一な生き方は見ていてすがすがしい。まさに道元の人物像に通じるものがある。

 道元に「眼横鼻直」(がんのうびちょく)という言葉がある。中国から帰ってきて、修業僧を前にして語った言葉らしいが、その意味は「中国からの特別なみやげは何もない。ただ人のまどわしを受けず、眼は横に並んでついていて、鼻はまっすぐにのびているということを学んだだけだ」ということらしい。いかにも道元らしくて、ボクの大好きな言葉である。


(1992)

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