日本という国


 日本および日本人について書かれた本はたくさんあるが、ボクなりに考えてみたい。

●無宗教
 宗教をどう定義するかにもよるが、少なくともキリスト教やイスラム教のような意味の宗教はない。一般的に仏教徒のように思われるが、ほとんどの人はお寺で修業したこともないし、仏教の経典を学んだこともない。ただ、死ぬと戒名をつけてもらうだけの話である

 祖先崇拝というのは儒教の影響だし、天皇制というのも、聖書のような教典があるわけではない。要するに日本は宗教の博物館で、さまざまな宗教が混在しているが、日本人の大多数は厳しい宗教的戒律にのっとって生活しているわけではない。

 それに反し、ユダヤ教徒やイスラム教徒には、食べ物に厳しい制限がある。ブタ肉は食べないし、肉も異教徒が殺したものはダメらしい。それにイスラム教徒は避妊が禁止されており、エイズ防止のため、コンドームをつけさせようとしても抵抗があるという。また、アメリカではNASAの職員が、人工衛星を打ち上げることがいかに聖書にのっとった行為であるかを教会を回って説明しているという話を、以前雑誌で読んだことがある。

 宗教が、経済発展を阻害する要因になっているのは事実だ。日本の経済発展も、無宗教だから可能だったかもしれない。しかし、「何のための経済発展か」と問われると、何も答えられない。

 人間の生活を豊かにし、文化を育ててゆくためには、根本に宗教がなければならないと思うのだが……。

●菜食主義
 日本人の主食は米で、大量の肉を食べるアメリカ人と較べれば、ほとんど肉(牛・ブタ)は食べないと言ってもいいだろう。農耕民族のため、国民性としては、集団生活を好み、協調性を重んじる。柔順でおとなしい性格だが、反面、自己主張にとぼしくなる。外国から何か言われると、すぐ弱腰になる。しかし、一端火がつけば、全国民が同じ方向に暴走してしまう危険性をもっている。

 同じ極東に住む東洋人でも、韓国人は肉が大好きなようで、焼肉の本場だ。国民性も非常に感情的で、攻撃的である。昔、ノテウ大統領が選挙演説をしている時に、民衆が彼に向かってタマゴを投げつけていたが、日本では考えられないシーンだった。

●単一民族
 単一民族ということに異論のある人もいるだろう。しかし、世界各国との比較で考えれば、認めざるを得ないと思う。特に共産党が崩壊した東ヨーロッパでは、民族問題でゆれにゆれている。
 単一民族ということは、社会全体が同質の社会だということになる、日本人が自己主張を嫌い、「和」や「以心伝心」といった集団の規範を重視するのは、そのためだろう。

●年功序列
 日本社会は、先輩・後輩の区別が厳しい。これは儒教の影響だろうと思っていたら、NHKの日本語弁論大会で、中国人がこのことに驚いていたので、中国ではそうでもないらしい。
 昔、指揮者の小沢征爾が、アメリカで成功し、日本である交響楽団の指揮をすることになったが、練習中に楽団員から「あいつはなまいきだ」と言われ、アメリカに帰ってしまった、才能のある人にとって、日本は住みにくいだろうなと思う。

●無階級社会
 「無階級社会」とは言いすぎかもしれないが、欧米と比較して、階級的対立が弱いのは事実だ。農耕民族であり、単一民族であることがベースになっていると思う。

 例えば、欧米では、会社でブルーカラーとホワイトカラーの厳しい区別があるが、欧米に進出した日本企業では、両者とも同じ作業服を着て働いている。また、アメリカの日系企業で、日本人の社長が、アメリカ人の掃除のオバさんに気軽に声をかけたところ、その人が大変驚いたという話も聞いたことがある。

●仕事第一主義
 無宗教と関連があるが、仕事以外に生きがいを見つけられないため、全神経を仕事に集中させることになる。これだけ経済大国になったのだから、すべての学校・企業を週休2日制にしてもおかしくないのに、日本人はまだまだ働き足りないと考えているらしい。

 宮沢首相の「アメリカ人は働く倫理観に欠けている」という発言があり、物議をかもしたが、その後の調査で、日本人は長時間働いている割には、アメリカ人より生産性が低いことが判明した。


(1992)

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