「世界は宗教で動いている」 橋爪大三郎(光文社新書)



 本書は、宗教と社会との関連をわかりやすく解説している。宗教が、政治・経済・社会と密接に関係しているという事実は、宗教に無関心の日本人には非常に説得力がある。

 日本人は「宗教」に何かしら嫌悪感を感じている。そもそも宗教を必要としていないようだ。仏教が形骸化し葬式仏教となっているからかも知れない。エコノミックアニマルと揶揄される日本人だが、人間として「中身」がないような気がしてならない。
 グローバル化が進む現代、日本人として世界に発信できる「宗教的思考力」が必要なのではないか。本書を下敷きとして、宗教について自由にディスカッションできればいいと思う。

■キリスト教
1.近代的所有権は、GODと被造物(人間など)の関係を人間とモノの関係にあてはめたものです。
2.もともとユダヤ人は霊魂の存在を認めなかった。
3.社会情勢としては、当時の古代社会が奴隷制だったことが大きい。
4.政治と宗教の二元論、言葉を換えれば政教分離が西欧キリスト教の原則になった。
5.政治権力が分裂していると、宗教改革のような運動が広がる余地があった。
6.アメリカは元をただせば、資本主義をやるためでも、民主主義をやるためでもなく、自由な信仰生活のためにつくられたのでした。
7.「汝の隣人が欲していることを汝の隣人にしなさい」なのだから、市場に製品を供給することは、隣人愛の実践と解釈できるのである。

■イスラム教
1.この唯一の「1」がイスラム教ではもっとも大事で、これをタウヒード(唯一性)といいます。タウヒードはキリスト教の三位一体に匹敵する中心的な概念だと言えます。
2.原理主義(ファンダメンタリズム)は、もともとキリスト教の用語です。……プロテスタントがカトリックと縁を切ったとき、こうした歴史的な経緯(聖書解釈のノウハウ)とも縁が切れてしまいました。
4.イスラム原理主義という言葉が創作され、イスラムは原理主義だ、だから過激派だ、だからテロリストだ、というように、単純にイコールでつないだ三段論法が横行しました。……イスラムと原理主義、過激派などというものを、イメージの中で一緒くたにするのはやめましょう。
3.人類全体が、ムスリムになるとどうなるでしょう。争う理由がなくなりますから、平和がきます。平和、これがイスラムです。イスラムは平和のための宗教なのです。

■ヒンドゥ教
1.カーストと輪廻は表裏の関係で、現世で低いカーストであっても、死んで生まれ変われば違うカーストになる可能性があると考えます。輪廻と対照的な考え方が祖先崇拝です。……儒教には輪廻はありません。
2.神が「化身」するという考え方が、ヒンドゥ教の根本的な点だと思います。こんな便利な考え方はない。
3.仏教は人間中心主義です。人間の能力を極めて高く評価する。仏になることをめざして、努力することが大事。
4.互いに干渉しないのがインド社会のルールだから、無関心が制度化されている。……BグループのことはBグループで勝手にやりなさい。Aグループはそこに立ち入りません。
5.イギリスの植民地統治は、分割統治が基本です。シク教徒が有能で、しかも少数派であるのに目をつけた。ヒンドゥ教徒やイスラム教徒に言うことを聞かせるため、彼らに圧迫されていたシク教徒を手先に用いることにしたのです。
6.日本では、政府の行政指導が社会慣行や宗教的ルールよりも強力なのです。

■儒教
1.最初にこの地域を統一したのは、秦(紀元前221〜206)という国です。……英語では、チャイナになっています。語源をたどれば国際的には中国の呼び名は「秦」なのです。
2.漢字が成立するということと、中国が成立するということはほぼ同義でした。
3.中国では、強力な統一政権が、ヨーロッパのキリスト教の代わりをした。だから政治の優先順位が高いのです。
4.彼(孔子)は、能力さえあれば、血筋・家柄と関係なく行政に参画すべきだという強固な信念を持つようになった。ここに儒教の本質があります。
5.儒教が過去を基準とし、伝統主義的なのは、それを担おうとする人々がこれまで政治に参画した実績のない新興階層だからです。
6.家族道徳と農業の家族経営は一体の関係にあり、それを重視する点が、儒学の非常に現実的なところです。
7.一人っ子では、50%の確率で、男の子の跡取りができない。ですからこれは、本当に政府の行政指導が強力だからできたことです。
8.儒教は、クーデター・政権交代を是認しているわけです。(世界最初の革命思想を唱えたのが、孟子)

■中国仏教
1.出家は許可制となり、僧侶は国家公務員になった。(出家や乞食の禁止)
2.禅宗は、中国で生まれた仏教で国家財政のリストラを生き残ることができた。どうしてかというと、独立採算で経営的に自立していたからです。
3.禅宗は中国的で、特殊な仏教です。まず禅宗は、仏教の戒律を無視して従いません。……日本の仏教はどんどん戒律がなくなっていったのです。
4.天台宗は禅宗と並ぶ、中国独自の宗派です。……この考え方は、最澄によって日本に伝えられます。そして、日本仏教の基軸になりました。

■日本の宗教
1.日本は、カミさまだらけ。どうしてかというと、カミとは自然現象のことだからです。
2.「山川草木悉有仏性」が日本仏教のスローガンになるのですが、……こんな考え方は、仏教から大きく逸脱いています。本来、山や岩や植物は輪廻しないのです。
3.朱子学は、武士の存在基盤を掘り崩す思想だと言ってもよい。そして最終的には、幕藩制を否定する、尊皇攘夷思想に帰着していきます。
4.本覚思想や本地垂迹の考えが根付いていた日本には、至るところに仏がいたのです。世俗の労働が仏道修行だという論理が無理なく出てくる。
5.だから、職場には神棚があるのです。……職場にカミがいるのですから」、それ以上とくに宗教活動に参加する必要もなく、教会に行く必要もありません。お寺も要らない。

 最後に「まえがき」から引用しておきたい。
「宗教には『自分とは何なのか』という問いが、凝縮されている。人間として生まれた誰もが、避けて通ることのできない問いである。だからこそ世界のどの文明も、宗教を核にして、その社会のまとまりをつくった。そのつくり方にはいろいろ違いがあるが、人類の知的遺産とはすなわち、宗教のことだと言っていい」

(2013-12)



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