核のない21世紀へ


 広島、長崎への原子爆弾投下から55年。米ソが競って核兵器の増強を押し進めた冷戦の時代は終わり、数こそ削減の方向に向かっているが、現実は互いが確固たる報復力「核の抑止力」を持つことによる「恐怖の均衡」が世界を支配している。

 現在、8ヵ国に依然として3万発の核弾頭があり、人類の悲願である核兵器の廃絶は、21世紀には実現するのだろうか。


《「核廃絶」へ、まず身近なところから行動を》

 核兵器開発は、ギリシア神話の「パンドラの箱」に例えられる。全知全能の神ゼウスの掟を破って人間の女性パンドラが開いた箱からあらゆる禍いが飛び出してきたように、1945年8月、広島・長崎に投下された原子爆弾は、瞬時に10数万の市民の命を奪い、さらに今なお多くの人びとを原爆後遺症で苦しめている。

 その後半世紀近くに及んだ米ソ冷戦の結果、核開発競争は熾烈をきわめ、80年代には、両国が保有する核弾頭は6万発にも達し、地球を20個も破壊する威力をもつまでになった。戦後の世界は、全人類破滅になりかねない「恐怖の均衡」で支えられていたのだ。幸い冷戦は終わり、米国のひとり勝ちの世界となったが、唯一の被爆体験をもつ日本国民の悲願をよそに、核廃絶は実現していない。

 1960年代に核兵器保有国は米国、ソ連(ロシア)、英国、フランス、中国の5カ国となった。そこで米英ソ3国は、これ以上、核保有国を増やさないために、NPT(核拡散防止条約)をまとめ上げ、加盟国にIAEA(国際原子力機関)の査察受け入れを義務づけた。

 インドとパキスタンはこれに加わらず、独自に核実験をして核保有国となったが、それ以外には核保有国は増えていない。イスラエルは秘密に核開発し、保有しているとされているが、中東和平が実現すればいずれは非核化されるであろラ。イラクと朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)も秘密核開発を試みたが、未然に阻止された。

 NPT体制は曲がりなりにも堅持されている。96年にCTBT(包括的核実験禁止条約)がまとまり、屋外の核実験は一切できなくなった。米国とロシアは、臨界前実験という実験室内の、核爆発を伴わない実験を続け、さらに米上院はCTBTの批准を拒否してしまったが、米政府は屋外の実験はしないという約束を守っている。

 NPT第6条は、核保有国に対し、核軍縮交渉を誠実に進めるよう義務づけている。しかし、既存の核保有国が核兵器の全廃には応じておらず、核弾頭の数もあまり減っていないという現実がある。米ロ両国はSTARTV(第三次戦略兵器削減条約)で2007年までに2000発程度に減らすことに合意しているが、英仏中の3国はまだ交渉の対象になっていない。核保有国の相互不信と疑心暗鬼が核廃絶への歩みを遅らせている

 米国は自国の核戦力が核の拡散と、戦争を阻止できるという核抑止力の考えを棄てておらず、日本は、その米国の「核の傘」で国の安全を守られているという矛盾を抱えている。これが日本の核廃絶の訴えを弱め、説得力を失わせていることを知るべきだ。

 21世紀を「核のない世紀」にし、地球上から核をなくすには、日本と朝鮮半島周辺の北東アジアを非核地帯にするなど、まず身近なところから行動しなければならない。

(埼玉大学教授・元lAEA広報部長 吉田康彦)


▲核爆弾の種類
「濃縮ウラン型原爆」
 天然に産出するウランはウラン238が99.3%、ウラン235は0.7%。核分裂をするウラン235を95%ぐらいまで濃縮し、高性能火薬で爆発的にたたきつけると「超臨界状態」になって核爆発をする。臨界というのは核分裂の連鎖反応が持続できる状態をいう。広島に落とされた型。

「プルトニウム型原爆」
 ウラン238が原子炉の中で中性子を吸収すると、プルトニウム239という天然には存在しない核分裂性物質になる。発電用原子炉から取り出した使用済みの燃料からプルトニウムを分離(再処理)することで軍事目的に転用することが可能。長崎で使用された。

「水素爆弾(水爆)」
 まずウラン型原爆を爆発させて発生する強力なエックス線を反射させ、二重水素、三重水素に核融合を起こさせる。1954年にビキニで実験された水爆の爆発力はTNT火薬に換算して広島型(13キロトン)、長崎型(18キロトン)原爆の1000倍を超える15メガトン以上で、第2次世界大戦で使われた火薬の総計に匹敵する。


(琉球新報 2000-8-15)

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