カルマパの脱出



 ことし初め、チベットの位の高い14歳の少年僧カルマパ17世がヒマラヤ山脈を歩いて越え、インドに脱出しました。

 チベットは世界の果ての仏教王国でしたが、1950年に中国の軍隊がやってきて、その後、中国領になっています。59年には、王様のダライ・ラマ14世がやはりヒマラヤを越え、インドに亡命しました。カルマパ17世の脱出は、世界の人に約40年前の悲劇を思い出させたのです。

 チベット仏教では、えらいお坊さんは死んでも極楽に行かず、再びこの世に生まれ変わり、人々を救う仕事を続けると考えます。カルマパ17世はチベット東部の遊牧民の子に生まれましたが、16世が死んだ後の92年、生まれ変わりと認められ、大切に教育されてきたのです。

 チベットを併合した後、中国は仏教を禁じ、約3000のお寺のほとんどを壊しました。この過程で100万人以上のチベット人が死んだと言われています。中国はその後、社会の安定のために仏教を利用する政策をとり、カルマパ17世の宗教活動を助けました。

 将来、カルマパ17世が中国政府に従順な宗教指導者になれば、チベット人も独立の気持ちをなくすだろうと期待したのです。しかし、カルマパ17世は、自分が尊敬する先生がインドにいることもあり、逃げ出してしまったのです。

 カルマパ17世のようにチベットから脱出する少年、少女は年間2000人ぐらいいます。ヒマラヤ山脈は年中、雪が降り遭難して途中で死ぬこともあります。それでもインドに行こうとするのは、自分たちの王様ダライ・ラマ14世がいるインドのダラムサラで、チベット語などを勉強したいからです。

(琉球新報 2000-3-24)



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