見直し迫られる公共事業


 ほとんど車の走らない高速道路、巨大な「釣り堀」と化した港湾施設…。国債など国の借金がふくらむにつれ、景気対策として進められてきた「巨大公共事業」に「税金の無駄遣いではないか」と国民の厳しい目が向けられるようになった。埋め立てや森林の伐採で貴重な動植物の棲む環境が失われることからも風当たりは強い。税金の使い道に無関心ではいられない。


《世界一の借金王と公共事業》

 2000年度予算案を審議する今度の国会は極めて異常であった。それは冒頭、民主党などの野党が審議をボイコットしだからではない。日本には現在、645兆円の借金がある。小渕恵三首相が自嘲気味に「世界一の借金王」と言っているように、これだけで日本はほとんど致命傷である。しかし、病気はさらに重い。

 第一に、政府はこれまで何よりも景気対策を優先してきたが、仮に景気が3%成長を回復したとしても、それによる税収は1兆数千億円にすぎず、今後、10年以上も毎年30兆円足りないという状態が続く。
 これに特別会計や道路整備公団などの表に出てこない借金を加えると、日本の借金は瞬く間に1000兆円を超える。これは借金で苦しんできたイタリアやカナダをはるかに上回る前代未聞ものだ。

 2つ目に、これを回復軌道に乗せるためには長い時間がかかる。国と地方自治体との関係など「この国のかたち」を変えなければならないということが分かった。

 この借金の70%が公共事業である。日本では今、雇用、年金、医療などの分野で、生活や生命、健康を維持していた、いわゆる安全・安心のスキーム(枠組み)がどんどん壊れている。身近に消費者金融で苦しむ人や、両親の介護でクタクタになっている人が増えてきた。犯罪の増加や官僚の堕落をみると、こうしたストレスが家庭や個人に、そして万全と思われていた組織にも色濃く浸透していることが分かる。

 景気が悪い、つまり消費が拡大しない原因は、皆がすっかり鎧をまとって自分だけの世界に閉じこもってしまったからだ。
 国会は、国民を解放するために無駄な公共事業を中止し、安全で安心な社会を構築するための福祉分野に費用を投入しなければならない。しかし、整備新幹線などを含む「公共事業バラまき」予算は、ただの1円も修正されないまま可決されてしまった。

 本年もまた、日本では将来に対してだれも責任を取らないまま、コンクリートが積み上げられていくのである。

(法政大学法学部教授 五十嵐敬喜)


(琉球新報 2000-4-11)

目次 トップ

inserted by FC2 system