拡大する国際テロリズム


 アメリカ中枢を狙った同時多発テロに対し、米軍はアフガニスタン攻撃を開始した。史上最悪のテロの犯人と断定するウサマ・ビンラディン氏をかくまったためだが、テロはなぜここまで過激化、国際化したのか。
 冷戦終結後、アメリカは圧倒的な軍事力・経済力をバックに「ひとり勝ち」し、世界の富を吸い上げはじめた。どの国もアメリカのわがままを止められない。「強大なアメリカに対して、貧しいものの対抗手段はテロしか残されていない」のだろう。


《テロリズムとイスラム過激派》

 日本の法律にはテロという犯罪はない。それだけ平和な国といってもいい。
 しかしテロがないわけではなく、オウム真理教による地下鉄サリン事件は、国際的にも先進的なテロとして有名だ。

 国際的に統一されたテロリズムの定義はないが、テロに関する条約はすでに12以上あり、まだまだ増える見込みだ。つまりテロ行為が一つの国の問題にとどまらなくて、他の国を巻き込むケースが増えてきたことを意味している。

 地下鉄サリン事件もそういう意味で、国際テロの一つとみなされている。
 アメリカ国務省の年次報告「国際テロリズムのパターン2000年版」によると、同年に国際的なテロ攻撃が423件起き、合計405人が死亡した。これは前年に比べ、件数で8パーセント、死亡者数で74パーセントの増加だ。

 そのうち反米テロ攻撃だと認定しているのは半数近い200件にのぼり、前年から18パーセントの増加となっている。ただし、これは主として南米コロンビアで、反米の意思表示として送油管爆破テロが増えたからだとしている。

 アメリカはテロ攻撃の目標になりやすい国だということを自覚しており、テロリストの背後にいるテロ支援国としてイラン、イラク、シリア、リビア、キューバ、北朝鮮、スーダンの7カ国を指定し特別に警戒している。

 このうちキューバと北朝鮮以外は、すべて中東地域の国だ。しかし中東にテロリストが多いという意味ではないので、誤解のないようにしたい。イスラム教の国では一般に犯罪が少なく、神に対するおそれが人々の生活に規律をもたらしていると考えられている。

 中東とテロが切っても切れない関係のように思われている理由は、主に第二次世界大戦後、パレスチナ地域にイスラエル国が建設されたためだ。1948年のイスラエル建国宣言の前から、入植してきたユダヤ教徒(いわゆるユダヤ人)と、土地を奪われると感じた地元民(アラブ人でイスラム教徒)の双方が、武器をとってグループをつくり、相手方を襲撃して殺し合うという歴史が始まった。

 それ以来、イスラエル対アラブ諸国という国のレベルでも第1次から第4次までの中東戦争が戦われた。冷戦終結後の90年代になると、アメリカがイスラエルにとって代わってイラクなどとの対決を主導するようになり(湾岸戦争)、それにともなって反米運動も過激になってきた。

 イスラム原理運動は宗教の復興活動であって、直接に反米と結びつくものではない。イスラム過激派を反米テロに向かわせている原動力は、アメリカ自体の偏りすぎたイスラエルびいきにあるといえよう。

(静岡県立大学教授・大礒正美)


(琉球新報 2001-10-23)

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