メル・ギブソン監督「パッション」人気沸騰



 米、キリスト教に回帰!?
◇国民の11%「見た」 ユダヤ教徒、反発も
 キリストの最後の12時間を描いた映画「パッション」(メル・ギブソン監督)が、公開後1カ月で計2億9530万ドル(約316億円)の興行収入を挙げる大ヒットとなっている。56歳の女性が心臓まひで死亡したり、「神は人間か、シンボルか」でけんかになった夫婦がはさみを使って切りつける傷害事件も起きた。この映画がなぜウケるのだろう。(ロサンゼルス國枝すみれ)

◇教会バックアップ
 石を投げられ、殴られ、ムチうたれ、最後は十字架にかけられるキリスト−−ロサンゼルスの映画館では、延々と続く拷問場面を見ながら、観客は涙を流していた。ゲリー・クレマーさん(35)は「感動した。キリストはこんなに血を流して苦しんだと知り、信仰心が深まった」と話した。

 映画評は「神の愛を、流す血の量で計っているようだ」(ロサンゼルス・デイリー・ニュース)などと散々だが、教会のバックアップで興行成績はうなぎのぼり。ロサンゼルスのクロスロード教会は日曜のミサで「映画に行こう」と呼びかけチケットを無料で配っている。

 3月12日発表のギャラップ調査によれば、全米人口約2億9000万人の11%が既に映画を見ており、65%が今後見る予定(ビデオを含む)という。見る理由として、61%が宗教的内容、18%は俳優メル・ギブソンによる製作を挙げた。

◇監督は熱心な信者
 映画製作に2500万ドルの私財をつぎ込んだギブソンは、7人の子供を持ち、自宅近くに教会を建設するほど熱心なカトリック信者。アルコール中毒、うつ病などに苦しんだが、雑誌のインタビューに「キリストが苦しむ映画を製作することによって私の傷が癒やされた」と答えている。

 ユダヤ教徒の一部が「反ユダヤ主義をあおる」と抗議したことも、メディアの注目を集め、結果的には広告の役割を果たした。ユダヤ人人権団体「サイモン・リーゼンタール・センター」(本部ロサンゼルス)は、「キリストの死にユダヤ人が責任があるという、ステレオタイプを増長する」との批判の手紙をギブソンに送った。ギブソンの85歳になる父親がニューヨーク・タイムズなどに「ホロコースト(ユダヤ人の大虐殺)は誇張されている」などと発言したことも、ユダヤ教徒の怒りに火をつけた。

◇最大の集団
 コロラド州では、映画に影響を受けたキリスト教の牧師が「ユダヤ人がキリストを殺した」という看板を教会に掲げて大騒ぎに。抗議を受け、牧師は謝罪したが、その後同教会にナチスのシンボルである「ハーケン・クロイツ(鉤(かぎ)十字)」が落書きされる事件も起きている。

 全米でキリスト教徒は減少傾向にあるとはいえ、人口の約8割を占めている。キリスト教徒の立場から公開映画をランク付けする会社を経営するテッド・ベア氏(57)は「映画を毎週見る人は1700万人だが、教会に毎週通う人口は1億3500万だ。(「パッション」は)最大の集団を観客として呼び込むことに成功した」と話す。日本公開は5月。

(毎日新聞 2004-3-27)



目次 トップ


inserted by FC2 system