A級戦犯と靖国問題



 靖国問題を考えていくと「極東国際軍事裁判」にぶちあたる。それは正当なものだったのか。 インドのパル判事は、全被告の無罪を主張したという。また「侵略とは何か」について述べたパル判決書がGHQ(連合国総司令部)によって発禁になったという。



《A級戦犯と靖国問題を考察……中国は明白な内政干渉だ》

 中国は太平洋戦争の日本の指導者(A級戦犯)が合祀されている靖国神社への首相参拝を問題視し、外交カードとして執勧に日本に突き付けている。ところでA級戦犯容疑者の裁判は正当だったのだろうか。

 昭和21年、連合国最高司令官マッカーサー元帥の命により、極東国際軍事裁判が米・英の戦勝国など11カ国によって開かれ、「平和と人道上の罪」という戦時国際法に違反する新しい概念でA級戦犯被告、25人の判決が昭和23年に下った。戦勝国の裁判官だけの理不尽な「報復裁判」で、東条英機ら7被告が死刑にされた。(ちなみに最近、琉球新報が報じた石垣島の7人を含むBC級戦犯として937人が死刑になった)

 11人の裁判官の中で国際裁判の判事の資格者は、その裁判で全被告の「無罪」を主張したインドのパル判事だけであった。日本軍の不法行為を調査した(検察官的な業務)ウェッブ裁判長や、裁判の協定用語である英語と日本語が理解できないソ連とフランスの判事は不適格だし、中国の梅汝判事に至っては本来裁判官でさえなかった。

 戦後の自虐史観の強い日本では「侵略性」だけが強調されるが「侵略とは何か」について述べたパル判決書がGHQ(連合国総司令部)によって発禁になり、戦勝国民でさえ、この裁判の審理の実情を知らされなかった。自由主義を標楴する多くの戦勝国が一人の判事の見解を発禁にするような異常な状況下でこの軍事裁判は行われた。

 「平和と人道上の罪」というなら11万人が殺された東京大空襲をはじめ、日本全国の主要都市への無差別爆撃や広島・長崎への原爆投下によって民間人を多数殺傷したどこかの国の大統領こそ超A級戦犯である(国際法上の国家間の戦争とは軍服を着けた軍人同士の戦闘をいう)。
 講和条約発効の翌年の昭和28年、国会は超党派で「戦争犯罪による受刑者の赦免」や「戦争犯罪による受刑者の釈放等」に関する決議をし、戦犯を国内法上、犯罪者とみなさないとの措置を取った。それで、靖国神社は「A・B・C級戦犯」を合祀したのである。

 1951年5月、マッカーサーは米上院軍事外交合同委員会の聴聞会で「日本の侵略性」に関して極東軍事裁判の判決と異なる、日本の「侵略戦争」というよりは「自衛戦争」の側面が強かった、と証言した。日本はABCD(米英中蘭)包囲網の対日経済封鎖に対抗するためには戦争以外に道はなかったと証言したのである。

 しかし、日本が初期の意図に反し、結果的に中国を侵略したのは事実なので謝罪してきたし、賠償放棄に対してはODAによる有償無償合わせて7兆円の援助をし、中国の発展に寄付してきた。
 戦後60年、友好条約締結後33年にもなるのに、中国は靖国問題をことさら政治間題化している。首相の靖国参拝は日本文化の問題であり、明白な内政干渉である。先の大戦で日本はアジア諸国に多大な迷惑を掛けたが、半面恩恵を受けた国々があったのも事実である。戦争犯罪とは、敗戦国の指導者だけが問われるものなのだろうか。

(伊波盛勇 那覇市、64歳)


(琉球新報 2005-5-22)

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