自殺、年に3万人の異常事態



 警察庁の統計によると、年間の自殺者数は昨年まで7年連続で3万人を超えた。これは交通事故の死者数の約4倍。10万人当たりの自殺者も27.0人(2003年同庁調べ)と先進国では突出して高く、「自殺社会」ともいえる異常事態が続いている。どうすれば自殺を防止できるのか。

(2つの戦略)
 精神科医の高橋祥友・防衛医大防衛医学研究センター教授は「自殺は予防できる」と言う。そのためには2つの戦略を組み合わせ、長期的に進める必要がある。

 まず自殺する人には大抵、うつをはじめとする心の病がある。そこで、そうした人を早い段階で見つけて治療すれば自殺を防止できる。
 もう1つは、現時点では自殺の危険がない人に対し「将来困ったときに、どこに助けを求めればいいのか」を地域で教育するという戦略だ。

 昔から自殺率が高かったフィンランドは1980年代から自殺の背景の解明と地域での予防対策に国を挙げて取り組み、10万人当たりの自殺者数を90年の30.4人から2002年に21.2人へと減少させた。

(相談窓口)
 02年の10万人当たりの自殺者数が39.5人と秋田県に次ぎ全国で2番目に多かった青森県では、15市町村で自殺予防の先進的な取り組みが進められている。
 まずストレスとうつに関する住民意識を調査。日常的なストレスやその対処方法、相談相手、自殺について考えるかどうかなどを質問する。

 調査で分かった傾向を小冊子にまとめ、住民に説明。柔軟なものの考え方や十分な睡眠と休養、趣味など心の健康を保つ上で重要なポイントも小冊子や演劇で説明する。
 六月町では、相談相手のいない人が多いことが判明。そこで一般医療機関の看護師が無料で相談に応じる「こころのケアナース養成モデル事業」を今年2月に始めた。

 全戸に「こころの健康力ード」を配布。病院や在宅介護支援センターでカードを見せると、研修を受けた「こころのケアナース」に相談できるという全国初の試みだ。
 事業に取り組む青森県立精神保健福祉センターの渡辺直樹所長は「悩みを分かってもらえたと感じるだけでも自殺を思いとどまることができる。ぜひほかの地域でも取り組んでほしい」と話す。

(遺族のケア)
 「残された人のケアも重要だ」と高橋教授。フィンランドではソーシャルワーカーや看護師らのチームが遺族のケアに当たる仕組みがある。日本にはそうした仕組みはないが、「あしなが育英会」は1999年から、自死(自殺)で親を亡くした子の支援に取り組む。自死遺児は全国で約9万人いるとの推計もある。

 同会つどい課長の西田正弘さんは「子どもに自死だったと言えない親もいる。しかし子供は、うそはついてほしくないと思っている。ひょっとすると一緒に苦しみ、考えることを期待しているかもしれない」と話す。
 民間非営利団体(NPO)の自殺対策支援センター・ライフリンクは自殺予防や自死遺族ケアの支援を進めている。

(琉球新報 2005-8-23)



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