米社会は戦前の日本


 「2001年の9・11は米国社会の雰囲気をガラリと変えてしまうほどの大きな衝撃を米国民に与えた」と米カリフォルニア州在住の芥川賞作家、米谷ふみ子さん。

 9・11の後しばらくの間、米谷さんが暮らす街にも、米国旗があふれた。戦争を推し進める共和党政権を批判すると「愛国心がない」と非難され、だれもが口をつぐむようになっていったという。
「強者の仲間に加わり、自分もエリート意識を持ちたいのか、ブッシュ政権の支持母体のキリスト教右派が多くの信者を集めている。戦前の日本で、国民が競うように神社を参拝したのと似ている」と話す。

 新著の「ええ加減にしなはれ、アメリカはん」(岩波書店)は、日本では見えにくい米国社会の変化と現状を描いたエッセー集。「この数年間の米国の雰囲気は、戦前の日本のファシズムみたい。おおらかな個人主義の米国が、どういう国になってしまうのか、恐ろしかった」と語る。
 広告主を気にして、戦争批判ができにくくなっていったメディア。共和党政権の汚職やスキャンダルなども追及は進まず、一部の記者は政権をかばった。「米国のテレビはミサイルを発射する場面を流し、落ちた先の悲惨な状況をアルジャジーラが放映するのが現実。米国のテレビは、戦争の残酷な様子を見せないことで、戦争に協力している」と批判する。

 反戦を訴えるため、米谷さんが原爆展を米国で開催しようと公的な施設や学校に協力を求めても、はぐらかされたり、うやむやにされることが多かった。ある責任者に「ブッシュ政権でなければ、話は違いますよ」と言われ、これが本音だと思ったという。

「生計を支えなければいけない人は、首にされるのを恐れて、自由にものを言えない。こういうときこそ、世のしがらみと関係ない高齢者と学生が力を合わせれば、本当のことを訴えることができます」

米谷ふみ子(芥川賞作家)

(琉球新報 2006-12-20)



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