ライブドア事件ー米国からの視点


  
 東京地検の「特種リークサービス」とみられる国策捜査の世論工作もあってか、日本のメディアは一斉に、ホリエモン・スキャンダルことライブドア事件を報じ、国民の目を引きつけている。

 小泉純一郎首相と竹中平蔵総務相のコンビは、堀江貴文ライブドア前社長を改革劇や刺客劇のにわかスターとして利用してきた。米ブッシュ政権とウォール街も、派手な兜町錬金術で集めた資金と大衆人気を土台に、旧弊日本の象徴、プロ野球とテレビ・ラジオ界に華々しく挑戦するホリエモンを、小泉・竹中改革の旗手として歓迎した。米側は日米株式交換による日本の金融資産と各種企業の敵対的買収支配を容易にするよう、小泉首相に注文しているからだ。

 従って、東京地検によるライブドア追及にブッシュ大統領筋とこれに近い米メディアは、「ライブドア事件で小泉改革が止まらないか、心配だ」と慌てている。しかし、ニューヨーク・タイムズ紙などはブッシュ大統領が内外政策の失敗を日本に押しつけている、と批判的だから、「ライブドアの暴走を支持した小泉氏と竹中氏は、改革の名に隠れたやみくもなフッシュ追従で、日米の将来を危うくしている」とクールにみている。

 ライブドア急拡大は21世紀型のインチキ・マネーゲームと情報技術(IT)取引による。2002年に破たんしてウォール街とブッシュ政権を動揺させたテキサスのIT投機政商、エンロン社の経営腐敗とブッシュ政権との癒着を重ねて、ライブドアを「ミニエンロン」と言う者も多い。しかし、ホリエモン錬金術はエンロンのそれよりも幼稚である。

 道具立てはネット取引を駆使したものだが、これまで日米両国で登場した金融バブル詐欺の歴史に通じた者であれば、ホリエモン錬金術は江戸時代以来、時代と共に姿を変えて登場する「ネズミ講」のマルチ金融商品転がし詐欺と同じだと気付くだろう。小泉首相の改革ブレーンで金融の実態と経済学に通じている竹中氏や霞が関の経済官僚がこれを見抜けなかったとなると、日本の将来は危うい。

 米国ではネズミ講式の錬金術詐欺は「ポンジー・スキーム」と呼ばれる。第一次世界大戦直後のボストンでイタリア系移民チャールズ・ポンジーは、欲の皮が厚い割に金融投機の危険に無知な大衆を相手に、倍々ゲームの投資転がし「ポンジー・ファンド」を売り込んだ。ホリエモンにあや.かりたいと、インチキ株価操作で急騰したライブドア株を買った日本のにわか大衆投機筋と同じく、ボストン市民は争って「ポンジー・ファンド」を買いまくった。

 しかし、ポンジー・ファンドのインチキにうすうす気付いた少数の者が売り逃げを始めると、これにつられパニック売りとなった。虎の子を失って路頭に迷う者が続出し、ポンジーは刑務所送りとなった。
 それ以来、最近のエンロン事件まで悪徳商人や企業によるポンジー・スキームはますます巧妙に,出没し、米証券取引委員会(SEC)による監視、企業統治の強化とのいたちごっこが続いている。また、ポンジー・スキームの裏には必ず監視機関の怠慢や会計監査法人、金融機関との共謀や政治腐敗がある。

 今、日本国民の目は専らホリエモン退治に集まっている。このため、ライブドア事件にまつわる小泉首相と竹中総務相の政治責任の追及や、ライブドア以上に深刻な耐震強度偽装問題の解明、そしてホリエモンが悪用した株式交換による企業の買収・解体、さらには粉飾決算とインサイダー取引の規制強化がうやむやになる恐れがある。ライブドア事件は、日本にはびこる金権至上の風潮と、小泉・竹中コンビによるブッシュ米国への「日本売却」政策が引き起こしたと考える。

 小泉首相の独断政治と改革という名の改悪である郵政民営化がまさにそうであり、国民がその「知的詐欺」に気付かないと日本の悲劇は続く。

霍見芳浩(つるみ・よしひろ) 
1935年熊本県生まれ。慶大卒業後、同大学院を経て米ハーバード大学で経営学博士号を取得。ハーバード大教授などを経て現職。著書「大変革」など。

(琉球新報 2006-1-29)



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