市場原理主義・・・危険性を告発


 市場原理主義が収入格差を拡大させる。今でこそ盛んに議論されているが、バブル崩壊直後にその危険を指摘したのが評論家の内橋克人さんだ。新刊「悪夢のサイクル」では、バブルと破綻の再来を警告し、「人間中心の経済を」と訴える。
 内橋さんが、不況の長期化とともに、富裕層と一般生活者の二極化を予測した時、多くの「主流派経済学者」たちは強く否定した。しかし、予測はことごとく現実のものとなっていく。

 「今の日本の経済学は、本当に見なければいけないものを隠ぺいしている。人々は真実が見えないから戸惑い、不満を抱く。分からないままに異端になることを恐れ、極端な同調主義に陥る。わたしは現実をきちんと示したい」
 本書が明らかにするのは、新自由主義経済がもたらす従来と異なる景気循環だ。規制緩和で流入した海外マネーが、バブルの発生と崩壊を招き、いったんは海外へ流出するが、リストラやさらなる規制緩和が進んだころ、再び流れ込んでくるという。

 「今の景気回復などまやかし。企業の経常利益が増えたといっても一部大企業に集中した話。その理由もリストラの成果などが中心で、売り上げが増えたわけではない。東京を除く地方も全体的に疲弊するばかり。過疎も進んでいる」
 市場まかせでよしとする「古典派」たちを切って捨てる言葉は激しい。「審議会委員になる学者など信用しない」。この反骨の精神は、内橋さんの記者時代にはぐくまれた。当時、先輩たちからたたき込まれた「三訓」を今も忘れることはない。

 「自分の目で確かめろ。上を向いて仕事をせず、自分自身が一番と思え。攻める側でなく、攻められる側に最後まで踏みとどまれ。これらが原点ですね。わたしたちは、戦争中を生き抜いたジャーナリストたちに鍛えられました」

 悪夢のサイクルを断ち切り、市場に振り回されない人間中心の仕組みを考えようと訴える。「日本もこのままでは地獄を見る」。しかし、希望は捨てない。「公共サービスの格差は認めない北欧諸国の経済システム、社会的公正を目指すフェアトレードなど、新しい試みはいろいろある。新時代の胎動に期待していますー「悪夢のサイクル」は文芸春秋刊、1500円。

 内橋克人(うちはし・かつと)
 1932年神戸市生まれ。神戸新聞社記者を経て経済評論家。著書に「匠の時代」「共生の大地」など。

(琉球新報 2006-11-13)



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