先住民バイオ資源・・・商品開発めぐり南北対立


 南米のカエルの粘液成分を参考にした鎮静剤、アフリカのサボテンを使ったダイエット剤。先住民に伝わるバイオ資源の知識をヒントに、先進国の企業が新薬などを開発した場合、利益を原産地の人々とどう分けるのか。ルールづくりを求める発展途上国と、企業活動への悪影響を恐れて、この動きを警戒する先進国の対立が激しくなってきた。こうした問題を話し合うため、ブラジルでこのほど、生物多様性条約の第8回締約国会議が開催されたが、結論は先送り。南北の溝は深い。

●損害1兆円
 「私たちは(同条約で)決めたことを守ろうと求めているだけだ」。会議でブラジル環境省の専門官が訴えた。1993年に発効した同条約の第一条には「遺伝(生物)資源の利用から生ずる利益を、公正かつ公平に配分する」とある。
 遺伝資源関連の医薬品分野の特許申請は90年は世界で1000件以下だったが、2004年は6000件を超え、ビジネスにつながるケースが増えている。

 「砂漠の民が狩猟の旅で、何世紀にもわたって用いてきた」。アフリカ南部のサボテンからつくった空腹抑制剤を販売する日本の業者も、商品宣伝の際に「先住民の知恵」を強調している。
 ブラジルのアマゾン川流域の熱帯林は、先住民が毒矢に使うヘビやカエル、宗教儀式や治療に用いる植物などの宝庫だ。欧米企業はこれらの資源に目を付け、鎮痛剤や筋弛緩剤の研究を進める。

 ブラジル政府はこうした現状について「無許可で資源が持ち出され、年100億ドル(約1兆1000億円)の損害を受けている」と主張。会議ではインドネシアやインドなどとともに、遺伝資源へのアクセス規制や利益分配のルールづくりを急ぐよう求めた。

●時間像ぎ
 しかし、欧州連合(EU)など先進国はバイオ技術開発や関連ビジネスヘの悪影響を懸念し、早急なルール策定に反対する。会議最終日に採択された決議は、4年以内に「作業部会が(ルールの必要性を含めた)議論を終える」との内容。環境保護団体は「先進国の時間稼ぎ」と酷評した。

 先進国がルール策定に消極的態度を取る背景には、先住民や途上国の要求を認めれば、今の知的財産の概念や特許制度を根本から変える必要が生じるという事情がある。
 「先祖から受け継ぐ知恵を盗まれている被害者は私たち」。ブラジルの先住民のベルフォート弁護士は、貧しい先住民こそ最終的に利益分配を受けるべきだと強調するが、現行の特許制度は、先住民の伝統知識など、主に口承で伝えられる知識を対象としていない。

●米は批准せず
 また途上国は、遺伝資源関連の特許申請の受け付けで、資源が「原産国の許可を得て取得されたものか」を厳しく審査するよう求めているが、遺伝資源と化学合成した成分を区別できるかなどの点で、技術的に難しい。

 世界知的所有権機関(WIPO)でも数年前から同じ議論が続いているが、やはり途上国と先進国が対立。「実効性のある具体策で合意するには、まだ長い時間がかかる」(明治学院大法学部、磯崎博司教授)状態だ。
 製薬、食品分野でいくつもの巨大企業を抱える米国は生物多様性条約を批准さえしていない。米政府は、途上国の主張が認められる事態を恐れているとみられている。

(琉球新報 2006-5-23)



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