守屋前防衛次官逮捕


 政治家と官僚と国民はグー・チョキ・パーの関係にあるといわれる。
 すなわち、政治家は人事権を握るということで官僚には強いが、選挙があるので国民には弱い。それに対して官僚は支配ということで国民には強いが、前記の理由で政治家には弱い。そして国民は政治家には強いが官僚には弱いのである。

 この三すくみの構造が健全に機能していれば、相互チェックが働いて、今度のような事件は起きなかった。信じられないような守屋武昌前防衛事務次官の暴走の責めを負うべきは、まず政治家である。中でも小泉純一郎元首相が守屋前次官の有力な庇護者であったことを見逃してはならない。米軍基地があり、自衛隊も駐屯する横須賀(神奈川県)が選挙区の小泉元首相は、殊のほか、前次宮をかわいがり、訪米の際、政府専用機に現職次官を乗せたりしたのである。局長ならいざ知らず、次官が首相と一緒に外国を訪問するなどは全く異例のことだった。

 小泉氏と利権などのつながりはないかもしれない。しかし、小泉氏の大物秘書といわれた飯島勲氏と前次官のじっこんぶりも知られ、そうした小泉政権時代の首相官邸の意向(あるいは威光)なくして四年もの間、次官を続けることはできなかった。その異常さは彼をそこまで増長させた政治家がもたらしたものという視点を手放しては、この事件の本質が見えなくなる。彼をクビにした小池百合子元防衛相がヘンに持ち上げられているが、それよりもクローズアップされなければならないのは小泉元首相の責任なのである。

 かつて、佐川急便事件が発覚したとき、わたしは絶えない汚職は(当時の)自民党一党支配が生んだ宿便のようなものであり、ロッキード便にリクルート便が重なり、それに佐川急便が乗っかったのだと指摘して、自民党支持者からのひんしゅくを買った。時代は変わって自民党一党支配ではなくなり、自民党と公明党の連立の自公政権となったが、これまでの宿便に今度新たに防衛便が重なったともいえるだろう。

 戦争中に日本は軍事費の増大を防げず、それが予算を圧迫して国民を貧窮の耐乏生活に追い込んだ。日本は貧しかったから旧満州に進出しなければならなくなったのではない。いたずらに軍事費を膨張させたから貧しくなったのである。

 その教訓を思い出せば、防衛庁から防衛省へ昇格した途端に発覚したこの汚職事件はかつての軍隊と同じく、ほとんどノーチエックで輸送機などを買い、税金を浪費させていることに着目しなければならない。政治家も官僚も業者にいいように食い込まれているということは、そもそも民主的チェック機能が働かず、シビリアンコントロールなど最初から放り投げられているということである。それでなくても防衛予算というのは専門性が高く、聖域化しやすい。ブラックボックスになりやすいのである。

 いま、前次官をめぐる疑惑で取りざたされているのは山田洋行や日本ミライズなどの防衛商社だ。しかし、契約額のランク上位を占めるのは三菱重工業などの大企業であり、「防衛省の天皇」といわれた前次官と、それら大企業との疑惑はなかったのか。政治家だけでなくそちらの方へも捜査が及んでほしい。

佐高 信(さたか・まこと)1945年生まれ。慶大卒。高校教師、雑誌編集者を経て82年から評論家。著書に「許されざる者、筆刀両断1」など。

(琉球新報 2007-11-30)



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