シッコ、米医療制度に切り込む



 「ボウリング・フォー・コロンバイン」でアメリカの銃社会に切り込み、「華氏911」ではブッシュ大統領に突撃、常に体当たりでドキュメンタリー映画を制作してきたマイケル・ムーア監督。最新作「シッコ」では、先進国で唯一国民健康保険制度がない、「ほとんどビョーキ」な米国の医療制度を真正面から取り上げる。

 米国では国民の6人に1人、実に4,700万人もの人々が無保険。毎年18,000人が、治療を受けられずに死んでいくという。仕事中、指を二本切断された無保険の大工に医師は聞く。「薬指は1万2千ドル、中指は6万ドル。どっちにしますか」
 無保険者のみならず、保険加入者の現実もまた悲劇だ。何かにつけて保険金を払おうとしない保険会社、そうした保険会社から献金をもらって、公的医療保険導入の動きに対して「社会主義への第一歩だ」と恫喝(どうかつ)し続ける政治家たち。

 保険加入者にしても一度大病を患えば、待つのは破産か死かという現状に「I am sick of it(もうたくさんだ)」とムーア監督は叫ぶ。
 米中枢同時テロで救命作業に当たり、健康を害した救命員たちをキューバのグアンタナモ海軍基地に連れて行こうとするムーア監督。そこでは皮肉なことに、米国で唯一の無償治療が受けられる。

 前作までの権力者突撃取材は影を潜めた今作。国民が保険会社に生殺与奪を握られるという変てこな現実をとにかく変えようと、「皆で立ち上がれ」との強いメッセージが込められている。

(琉球新報 2007-8-24)



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