プロスポーツビジネス  生島 淳



 日本では、同じ地域に本拠を置くプロスポーツの球団同士が互いを「競合相手」と見なすことが多い。同じ都市にありながら、プロ野球の球団とJリーグに所属するクラブが、積極的に協力体制を組んでいない例はすぐに思い浮かぶ。球団やクラブの母体の成り立ち、発想が違いすぎるためである。

 それどころか、プロ野球ではリーグが違うだけで、「競合」になってしまうようだ。
 今季、パ・リーグの西武が日本シリーズ進出を決めたクライマックス・シリーズ(CS)の第2ステージ第5戦(西武の先発の涌井が7回2死までパーフェクト・ピッチングを見せた見事な試合)は、セ・リーグの巨人対中日のCS第2ステージ第1戦とまったく同じ時間帯に行われていたのだ。

 これでは、野球ファンに「どちらの試合を見るか選べ」といっているようなものだ。
 日本ではセとパは別々に対戦スケジュールを組む。コミッショナー事務局は、試合時間が重なっても調整に動くことはない。試合の日程決定は各リーグの専権事項だからだ。

 しかしその結果、CSという重要な試合を両方見たい、というファンは不利益をこうむる。こうした不都合は、他のリーグや他競技へのリスペクト(尊敬)の不在、ファンの意向に配慮しない姿勢から起きている。
 アメリカでは、こうした事態は回避されるのが普通だ。10月26日、プロフットボールのNFLは、視聴率も高く、CM収入の多い日曜夜の試合を中止した。なぜか? その時間帯にメジャーリーグ(MLB)のワールドシリーズが行われたからである。MLBがナンバーワンを決める重要な試合をしている以上、NFLは一歩引いたのだ。

 MLBのプレーオフでも、ア・リーグとナ・リーグの試合は、時間をずらすのが常識だ。
 同じような配慮は各都市でも見られる。9月はMLBとNFLが重なるシーズンだが、昼と夜に分かれて試合を行い、時間が極力重ならないように調整する。同じ都市に本拠を置くプロ球団はライバルではなく、パートナーだという意識が強い。取材していると、現場で広報担当者同士が情報交換をよくしていると感心させられる。

 アメリカのプロスポーツビジネスは、利益の配分など、意外にもアメリカ人が嫌う社会主義的な政策で成功を収めてきた。あくまで「共存共栄」が根本理念にある。
 それに引き換え、日本はどうだろう? 自らの縄張りを守ろうとしてばかりいると、結局は共倒れになりかねない。ファンや他団体といった、他者の利益に配慮することがまずは必要なのではないか。

(生島 淳・ジャーナリスト)

(2008-11-8 朝日新聞)



目次   


inserted by FC2 system