私と環境「人間の欲望、改めねば」 アグネス・チャン



 85年、内戦と干ばつのエチオピアを訪ねた。川は干上がり、草木の緑はまったくない。骨と皮ばかりにやせ細った人の姿が延々と続く。「燃料にするため木を切りすぎたのと、温暖化による天候異変のため、干ばつが頻繁になったのです」と現地のスタッフが説明してくれた。

 難民キャンプの子どもたちは、みんな太ももが私の3本の指ぐらいの太さしかなかった。わずか1週間の滞在中、目の前でたくさんの子どもが亡くなった。その当時から、温暖化は、地球の裏側の子どもたちには生死にかかわる問題だったのだ。
 05年、内戦が続くスーダンのダルフールを訪ねた。反政府軍の兵士が、焼き打ちにあった村の小学校の壁を指さした。「ここに30人ぐらいの子供たちが並ばされ、銃殺されたんです」。無数の銃弾と血の跡を見て、胸がつまり、涙がこぼれた。

 「こんな悲劇が起こるのも油のせいです」と現地スタッフが言う。03年、石油が発見され、地元の部族と政府の間に水と油の利権の戦いが始まった。虐殺したのは、政府の手先の「ジャンジャウィード」と呼はれるアラブ系民兵たちだという。虐殺を怖がる村人は避難民となり、続々とキャンプに集まっていた。

 私が訪ねたキャンプでは、井戸のまわりに長蛇の列ができていた。「今日、水がもらえなけれは、ご飯もつくれない」と言う若い母親は、2日も順番待ちをしていると訴えた。
 そもそも多くの資源を使っているのは先進国の私たちだ。私たちの生活を維持するため環境が破壊され、争いが起きているともいえる。

 では、日本にいる私たちはどうすれはいいのだろう? エネルギーに関して言えは、日本は地形や天候にも恵まれている。石油以外の安全な自然エネルギーを利用することができるのだから、その開発が進めは、エネルギー獲得競争に参加せずにすむはずだ。

 日本は世界一の「水輸入国」とも言われる。輸入した食料には外国の大切な水が大量に使われている。それなのに全食料の3割が残飯になっているという。大量の木材輸入も、海外の森林破壊につながる。食料の自給率を高め、国産材を使うことが大切だ。
 計り知れない人間の欲望を改めなければ、事態はどんどん深刻さを増す。遠い国で苦しんでいる仲間を助けるため、私自身もあらゆる知恵を使って環境を守るための行動を続けていきたい。

(2008-2-24 朝日新聞)



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