法華経を現代語訳した植木雅俊さん(56)



 「法華経は、人間をいきいきと描いていて、シェークスピアの戯曲のように面白い」。それなのに、言葉の意味がわからないから葬式のBGMになってしまっている。

 それではもったいないと、現代人にわかる言葉に訳し直した「梵漢和対照・現代語訳法華経」(岩波書店)を3月に出した。「法」と訳されてきた「ダルマ」に「ものごと」をあて、「諸法実相」は「あらゆるものごと」とした。K・イナダ米ニユーヨーク州立大名誉教授は「明断な訳はまれにみる成果」と評した。

 九州大で物理学を学んでいる時に仏教と出会った。大学紛争直後、どう生きるかに悩み、原始仏典に心ひかれた。東京で就職してからも独学を続けたが、釈迦が教えた、もともとの仏教の姿が見えてこない。40歳で仏教学者中村元さんの門をたたいた。「人生に遅いということはありません」。サンスクリット語を基礎から学ぶよう勧められた。
 原始仏教における男女観をテーマにお茶の水女子大で博士号を得た。性差のない仏教を原典に探る過程で法華経の既存訳に不満を覚えた。

 帰宅すると午前3時まで机に向かった。「電車は書斎」と作業ノートを持ち歩き「食事中も歩いていても訳を考えた」。パソコン入力は妻眞紀子さんらが手伝った。上下巻で1256ページ。完成まで8年かかった。
 「悩み困っている人ほど知った時の喜びが大きいと教える法華経。私に生きる自信を与えてくれました」

(2008-5-17 朝日新聞)



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