先進国の中で唯一の多神教汎神国である日本

石角 完爾(いしずみ かんじ)(千代田国際経営法律事務所代表)



 バチカンは世界10億人以上のカトリック教徒の総本山であることは皆様ご承知の通りでありますが、日本国政府から上野大使が派遣されている通り、独立した国でもあります。従って、バチカンは各国に外交官を配置しているのみならず、世界各国から外交官が来ております。そのうえでカトリック国の各地に司教を配置しているのです。こういう国は類を見ません。あったとすれば比べるのもおかしいことですがロシア総司教と共産党書記長のいた旧ソ連邦でしょう。

 その他にバチカンは独自の外交権、司法権、警察権、独自の国家予算、独自の海外向け放送局、そして何よりも独自の情報収集力と発信力を持っています。例えば、前大統領ブッシュは何と在任期間8年中に6 回もバチカンに行きローマ法王に会っています。この回数の多さはそれだけバチカンが持つ世界への影響力をアメリカ大統領が熟知しているからであると想像されます。またバチカンは週一回ほどの頻度で法王メッセージを世界に発しています。日本のメディア諸氏や指導層は、そのメッセージを読んでいますか? 読んでいないでしょうね。

 日本では全く報道されていませんが、このまえローマ法王がアメリカに来た時にはマジソン・スクウェア・ガーデンに10万人が埋め尽くされ、感動の渦でマジソン・スクウェア・ガーデンが振動したぐらいだと言われています。テレビ中継は最高の視聴率でした。またグァテマラに前ローマ法王が行った時は南米中から35万人が集まり、出席者全員が感動の涙を流したと報道されています。

 非宗教国家である日本はこの宗教の持つ意味合いというのは全く分かっておりませんし、日本の新聞記者諸氏もメディア諸氏も、アメリカの学校では普通に教えている宗教教科が日本にはないため、宗教(キリスト教、イスラム教、ユダヤ教)に対する理解の程度はアメリカの小学生のレベルをはるかに下回っていると思います。

 アメリカ、イギリス及び北ヨーロッパ(北欧ではない、北欧よりも広いドイツ、北フランス、オランダ、ベルギー、ルクセンブルグ、北欧3ヶ国)はカトリック国ではありません。言うまでもなくプロテスタント圏です。

 カトリックとプロテスタントの違いは、プロテスタントがより純粋に原理を追い求める原理主義者に近く物事を白と黒、善と悪と2分法でしか見ない傾向が強いのですが、カトリックはローマ法王(生きた人間)を中心としてまとまっていることで分かるように、法王や司教という生きた人間を中心に極めてプラグマティズムな(白と黒の間に灰色もあるじゃないかという)アプローチをするという面があるということです。しかし、いずれも紛れもない一神教です。

 このように世界12億のカトリック教徒、そしてアメリカ、イギリス及び北ヨーロッパに見られるプロテスタント国、この2つはキリスト教という共通項で括られますが、キリスト教は一神教です。

 カトリック及びプロテスタントのルーツは言うまでもなく人類史上初めての一神教であるユダヤ教であり(イエス・キリストはユダヤ人)、世界に1千数百万人しかいないユダヤ教の強力な影響力もまた無視できません。そして世界に更に11億人以上と言われる信者を抱えるイスラム教もユダヤ教から発生し、そのルーツをユダヤ教に持ち、教義は同じ一神教であります。中世・近世ではユダヤ教徒はイスラム圏の中で生きながらえさせてもらったという面があります。

 カトリック、プロテスタント、イスラム、ユダヤ、いずれも一神教であり、汎神的多神教的な考えが定着している日本は、これら一神教の社会、世界にどう向き合うべきかという重大な問題があります。

 このように考えてくると、先進国の中で唯一の多神教汎神国である我が日本は一神教のプロテスタント国及びカトリック圏から見ても非常に孤立した存在であるのみならず、またイスラムから見ても異端な存在であると言えるわけです。

 考えてみれば世界の覇者中国も一神教と言えます。共産主義(カール・マルクスはユダヤ人)という一神教でまとまっているとも考えられるわけです。また隣国韓国はキリスト教国と言っても過言ではありません。キリスト教国ではないと仮にしても歴史的には一神教の考えがもともと定着している国です。

 宗教に無知、無関心、無意識な日本の指導者達に日本の舵取りが間違いなく出来るのかということも気掛かりであります。

 一神教の国々は、過去に亡くなったイエス・キリストやムハンマドという創造主と人間との間の橋渡し役を持つかどうか(プロテスタント国、イスラム国)、そして、ローマ法王あるいはロシア総司教という生きた橋渡し役を持つか(ロシア正教、カトリック教国)の違いはあるものの、いずれも創造主という一神概念であることには違いがありません。

 なお、ロシア及び東欧諸国はロシア正教、東方正教というカトリック教でまとまっています。これはローマ法王を頂点とするカトリックとはまた少し色合いが違いますが、同じ一神教であることには変わりありません。
 注意しなければいけないのは中央アジアの諸国です。ここは「___スタン」という国名のところが多いのですが、これは基本的にイスラム教国と考えて間違いありません。

 従って人口別に見ても、あるいはジオグラフィカルに見ても、多神教国日本は極めて異端少数に属するわけです。日本人は経済面でグローバルスタンダード嫌いですが、宗教では100%アンチ・グローバルなのです。

 その少数異端の日本がいかに世界に向かって発信しなければいけないのか、何を発信するのか、は最も苦労するところであり、また、その少数異端の多神教国日本が一神教国であり、かつ、プロテスタントという原理主義国(味方でないものは全て敵と考える二分法の国)であるアメリカとどう付き合っていくのかというのは非常に難しい問題であろうと思います。この辺の理解がないと国の舵取りを誤ると思います。要するに、イスラムからもキリスト教国からも「同胞ではない日本」という目で我々は見られているのだということを、まず十分頭の中に叩き込んでおく必要があります。「同胞」とは一神教の国々という意味です。

 アメリカ大統領の就任式でオバマが手を置いて宣誓したのは単なる古本ではありません。あれはユダヤ教のヘブライ聖書とキリスト教の聖書が合本されたHoly Bibleと言われるものです。このバイブルがアメリカ人の75%ほどの人々(75%ぐらいが毎週ぐらいに教会に行く。)にとってはいかに神聖なものであるかということが我々日本人の肌感覚で理解出来ていないと、一神教原理主義国アメリカと汎神国日本とは元々歯車が合わないということになりかねません。残念なことに最近では歯車は合わなくても良いとアメリカは思い始めており、同じ一神教原理主義国中国との方が歯車は合うとアメリカ指導部は考え始めているようです。

 アジアではヨーロッパと違い宗教はもっと複雑に入り組んでおり、宗教というベースの違いがあるところに鳩山首相がいきなりアジア共同通貨圏構想を打ち出しても、どう思われるでしょうか。EUはキリスト教というベースが共通であったからまとまったのであり、トルコがなかなかEUに入れないのは宗教の違いが影響しているのかも知れません。トニー・ブレアが最近カトリックに改宗したのもEUというカトリック国が多数を占める初代EU大統領を狙っているからです。
(2009-11-12)

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