食卓を隔てる「壁」



 ニューデリーに駐在した同僚が日本に帰ることになり、日頃つきあいのあるインド人を招いて送別会を開くことにした。幹事役として7人に声をかけたが、これがなかなか悩ましい。
 比較的上位のカーストの3人は菜食主義で酒もほとんどのまない。下位の4人は肉を食べ、酒ものむ。みんなよく知る関係なのだが、階層が違うので普段から食卓をともにしない。

 以前、知り合いの日本入から「違う力ーストの友人を食事に招いたら、片方が不機嫌になり、台無しになってしまった」との話を聞いたことがあった。はて、どこでどのように会を開けば、場は和やかに進むのか。
 悩んだあげく、最近できたばかりの大型ショッピングモールを選んだ。光に包まれたおしゃれなテラス席が開放的だ。菜食者専用のレストランなのでテーブルを分けなくてもすむ。流れる音楽は米国のポップス。

 伝統をまったく感じさせない雰囲気に、一抹の期待をかけたのだった。
 が、現実はそんなに甘くはない。テーブルでは向かい合った日本人2人をはさんでまっぷたつ。料理の皿が行き交うこともなかった。ただ、遠慮がちなばらも、互いのスピーチに茶々を入れあい、時折笑いが漏れたのは救いだった。

(朝日新聞 2009-4-3)



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