流血の記憶を語り伝えるミャンマーの僧侶…アシン・ターワラさん



 2007年9月、旧首都ヤンゴンで、軍事政権に抗議して座り込む僧侶たちの最前列にいた。
 みな、口々に経を唱えていた。そこに治安部隊が殴りかかり、実弾を浴びせた。自身は血まみれに、仲間は崩れ落ちた。「いまだに夢でうなされる。だが、為政者に命じられ、『仏陀の息子』の殺人者とされた人々の苦しみは、もっと深いはずだ」

 8人きょうだいの4番目として生まれた。南西部の穀倉地帯でありながら1日2食が当たり前の極貧。8歳で寺に預けられた。
 ビルマ仏教は、政治を俗界の欲望として僧侶の関与を戒める。17歳の時、当局の監視をかいくぐり貧しい人に薬を届ける活動を仲間と始めて心を決めた。「圧政を見て見ぬふりするのが仏陀の教えではない」
 燃料費の値上げを機に市民生活が窮迫を極めた時、迷わずデモを率いた。破戒僧と呼ばれ、懸賞金付きで追われる身に。小舟で国を離れ、インドを拠点に僧侶組織の書記長として活動する。

 11月7日、軍事政権は20年ぶりの総選挙を実施する。「暴力で人々の口を封じて強行する選挙に国の未来はない」。仏教団体の招きで11月4日まで日本に滞在し、各地で民主化問題への理解を求めている。
 デモ取材中のジャーナリスト長井健司さんが射殺された時、現場近くにいた。「命がけで真実を伝えようとした恩人を、忘れない。日本の人と一緒に遺志を未来へつなげたい」

(朝日新聞 2010-10-21)



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