劉暁波氏のノーベル平和賞受賞



 劉暁波氏のノーベル平和賞受賞を友人に知らせようと携帯電話でショートメッセージを送ろうとした。何度試してもだめだった。彼の氏名3文字を入れると、送受信ができないよう規制されていることを思い知らされた。

 世界の総人口の5分の1にあたる13億人が、米国に次ぐ経済力を誇りながら、いまだに言論の自由が厳しく制限された独裁国家で、息苦しい暮らしを余儀なくされている。劉氏への授賞は、ともすれば忘れられがちな中国の現実に国際社会が改めて目を向ける貴重な機会をもたらした。
 劉氏はみずからのペンだけを頼りに、度重なる弾圧にも屈せず、「改革開放」や「社会主義市場経済」の旗印のもと民主化を置き去りにして経済発展に適進する共産党指導部を鋭く批判してきた。

 2008年春。チベット弾圧を非難する世界各地の人々が、北京五輪に向けた聖火リレーの前に立ちはだかった。開会式に出席すべきか。先進諸国の首脳の多くは、出席で予想される国内世論の反発とボイコット後に心配される対中関係の悪化をてんびんにかけ、出席を選んだ。そして、同年9月の「リーマン・ショック」に端を発した世界金融危機後、国際社会の「中国頼み」に拍車がかかる。世界経済の中国への依存度が深まるにつれ、胡錦濤体制は批判をはねつける発言力を増した。

 メルケル独首相も、サルコジ仏大統領も、オバマ米大統領も、チベット仏教の最高指樽者でノーベル平和賞受賞者でもあるダライ・ラマ14世との会談に踏み切りながら、13億人の市場という切り札を持つ中国に激しい外交攻勢を仕掛けられ、腰砕けになった。日本の歴代首相は、中国側に人権問題で注文をつけることさえしてこなかった。

 ノーベル賞委員会の決断は称賛に値する。劉氏が08憲章で求めた「人権」や「自由」を中国の人々が存分に享受できる日を迎えるためには、外からの監視や働きかけが不可欠だ。国際社会は「ウェークアップ・コール(警鐘)」と受け止めるべきだろう。

(朝日新聞 2010-10-9)



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