家族で食事をゆったりと…エジプトの休日



 私は母が日本人、父はエジプト人です。東京で生まれ、今は日本を拠点に生活していますが、中学から大学卒業まではエジプトで家族と暮らしていました。
 エジプトは大多数がムスリム(イスラム教徒)の国家です。国民の祝日にもラマダン(断食用)明けのお祭りや、巡礼のお祭りなどがあり、休みが何日も続きます。お祭りは純粋な太陰暦で決まり、太陽暦の日付としては毎年移動します。

 ふだんも休みは日曜ではなく、モスク(イスラム礼拝所)で集合礼拝をする金曜が休日です。木曜か土曜をくっつけ、週休2日制にしている会社が最近は増えてきました。
 金曜の礼拝は正午ごろ。休日は朝遅くまで寝ているので、礼拝が一日の始まり。お祈りが終わると家に帰り、ゆっくり食事を作って家族で食べる。たいていの家は金曜のお昼に一番手の込んだ料理を作ります。

 ある程度資産があって、子どものいる家庭は、この後、スポーツクラブに行くのが定着しています。ここで子どもに習い事をさせている。水泳やテニスが入気ですが、男女を問わず、空手、柔道を習っている子もとても多い。文化的なおけいこのできる施設も併設されていて、クルアーン(イスラム教の聖典)を学んだり、アラビア書道に励んだりする子もいます。親たちはその間、お茶を飲み、おしゃべりして過ごします。

 金曜以外の日のエジプトは、朝が早いんです。8時に始まる会社も珍しくありません。会社員は正午ごろにデリバリーのサンドイッチとかを自分の席でパパッと食べます。そのココロは、ちゃんとした食事はやっぱり家に帰って食べたいから。以前は2時ごろ終わる会社が多かったのですが、最近は、他国の事情に合わせて終業時間がだんだん遅くなり、4時ごろに家族と、遅い昼ご飯を食べるようになってきました。

 お昼を食べたら、ちょっと昼寝をして、夜になってから出かけます。暑いからでしょう、ショッピングも夜なら、人に会うのも夜。病気になったら「夜になったら、お医者さんに診てもらいましょう」。若い女性が、映画の後、夜中の2時までおしゃべりを楽しむことも珍しくありません。帰りは大抵自分で重を運転します。お酒を飲む入はまれなので。

 エジプトの遊びの単位は家族です。長期休暇も家族でリゾートというのが多いですね。昔は、カイロの市民にとって長い休みといえば、アレクサンドリアのアパートで自炊生活、と決まっていましたが、今は地中海岸のいろんなところにコテージができています。富裕層には別荘を持つ人も増えました。でも、家族で自炊は変わりませんね。

 この家族主義が縁故社会を生み、就職難を生んでいるのもまた事実です。就職に当たり縁故を最大限利用するだけではありません。お金持ちは小さいころから子どもに徹底した英語教育を施し、国際感覚を持った企業の即戦力へと育てる。

 ただ、貧富の差が広がっても、それが直接、治安の悪さにつながらないのが、またエジプトらしい気がします。お金がなければないで、家族でナイルのほとりの並木道でお弁当を広げたり、ピラミッドに遊びにいったり。時間の流れはナイルのようにゆっくりしています。育児休暇を取ったり、長いバカンスを取ったりすることに後ろめたさを感じたりする人はいません。仕事が遅れたら、遅れたでいいじゃない、なんです。

(師岡カリーマ・エルサムニー:アナウンサー)

(朝日新聞 2010-11-11)



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