民族や文化の平等を…チベット族デモ



 反日デモの陰に隠れるようにして、先の国際面に小さく、中国でのチベット族のデモの記事があった。中国語(漢語)による教育の強制に青海省の高校生が反発し、北京のチベット族学生にも飛び火したという。
 青海者では最近、チベット語と英語を除く全教科を漢語で行うと決めた。高校生が何千人も集まって、「民族や文化の平等を」と抗議したそうだ。中国メディアは報じなかったとみえ、記事はロンドンの国際団体などの情報に拠っていた。

 「国語とは陸海軍を備えた方言である」という。言い得て妙だ。支配する者の言葉が国家語として君臨してきたのは、世界の歴史が示している。中国は1951年に軍をラサに進駐させた。以来、抵抗と鎮圧が繰り返されてきた。
 今も独立の動きがくすぶるチベット族には、漢語はまさに「軍を備えた方言」かも知れない。チベットだけではない。その隣には「シルクロードの火薬庫」と呼ばれる新彊ウイグル自治区がある。昨夏の騒乱はまだ記憶に新しい。

 無理を通した末の火種の、とかく多い国である。その国が、内陸から転じるように海をにらむ。海洋権益をめぐって今後どう出るのか。日本だけでなく周辺国に共通の懸念なのは、報じられる通りだ。
 「明日はわが身」の心配もあってか東南アジアのある外相は、今の日中関係を「中国による銃口を突きつけた外交」と評したそうだ。「互恵」という決まり文句の奥に、大国主義や対日強硬の鎧がちらつく。一衣帯水ゆえの緊張をはらみながら、管内閣には正念場の外交が続く。

(朝日新聞 2010-11-1 天声人語)



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