白人と非白人の間に優劣ない…ジャレド・ダイアモンドさん



 本紙読書面の企画「ゼロ年代の50冊」で1位に選ばれた『銃・病原菌・鉄』の著者ジャレド・ダイアモンドさん(73)は、大胆な文明論で知られる。「欧米が世界を支配しているのは白人が知能的に優れているからだ」という「常識」を覆してみせた。

 カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で地理学の講座を受け持つが、関心領域は理系、文系の境界を越え、生理学、進化生物学、言語学、歴史学に及ぷ。
 『セックスはなぜ楽しいか』『人間はどこまでチンパンジーか?』『文明崩壊』。著作はどれも、壮大な問題意識を出発点にしている。
 「人がゴリラより長いペニスを持つのはなぜか」「英語や仏語など印欧語だけがなぜ繁栄したのか」「マヤ文明が消滅したのに日本が存続できたのはなぜか」…。

 『銃・病原菌・鉄』を書いたきっかけも、「白人ばかりがなぜ売れる品物を次々に作り出せるのか」というパプアニューギニアの男性の素朴な問いかけだった。
 広く信じられているのは「白人がほかのどの人種よりもすぐれているから」とする説。著者はこれを「19世紀の人種差別意識そのもの」と退け、「遺伝子レベルで精査すると白人と非白人の間に優劣の差はない。わずかに肌や髪の色が違うだけ」と論じた。

 ではなぜ白人だけが繁栄したのか。25年に及ぶ研究でたどりついた結論はこうだ。
 「たまたま欧州に根付いた人々だけが、環境に恵まれて定住農業がうまくいき、家畜がもたらす伝染病に免疫を持ち、鉄と銃をほんの少し早く手にできたため」。白人は環境面で運がよかったにすぎないという見解である。
 賛否の大議論が起きた。

 「読者の4分の1は読後もなお、私の説を受け入れてくれない。口にすれば『人種差別』と非難されるので言わないだけで、大半の白人は腹の底で白人優越を信じている」
 『銃・病原菌・鉄』は38言語で出版され、数百万部が売れた。続く『文明崩壊』も31言語に翻訳された。こちらはマヤやルワンダなどがたどった滅亡の要因を分析。「1500年かかって築いた大帝国も100年であっけなく崩壊する。イースター島の首長たちは脅威を前にして無策だった。マヤの王たちは現代の米国の経営者と同じで、これみよがしの浪費に明け暮れた」

 文明の行く末を案じる目は日本にも注がれる。「17世紀の日本は人口膨張と乱伐で深刻な状態だった。幕府の森林再生政策が奏功して切り抜けたが、現代の日本は相当にもろい。日本を滅ぼすのは近隣国との紛争ではなく、輸入に頼り切っている魚と木。漁業と林業の国外資源が尽きたら日本はたちまち行き詰まる」

 世界史規模で見れば、米国中心の現代文明は「あと50年待つか持たないかの時限爆弾」だと言う。
 「いま70億人の人類がさらに30億人増えるのに、資源はもう限界。先進国が大量消費をやめなければ人類は大崩壊する。ニューヨークや東京の摩天楼が廃虚と化し、それをあなたや私の子孫が遺跡として眺める時がすぐそこに来ているのです」

(朝日新聞 2010-11-1)



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