トルコにおける日本年…海外に出て知る日本への好評価



 今年は「2010年トルコにおける日本年」で、1年間、日本とトルコ間の経済・文化・学術・教育・スポーツ・観光などの幅広い分野における交流が行われる。公式のキャッチフレーズは「トルコと日本は、もっと近くなれる」である。5月6日、私はイスタンブーール日本国領事館を訪問した。

■教科書に載るトルコ人救助
 トルコは現在、大変な親日国であるが、そのきっかけは、今から120年前にさかのぼる。明治23(1890)年、オスマン帝国の軍艦エルトゥールル号が初来日し、明治天皇に拝謁後、帰途についたとき、和歌山県串本町の大島沖で台風のため座礁沈没した。
 その際、大島の島民総出で必死の救助活動が行われた。この日本人の献身的救助活動は、トルコの小学校の教科書にも記載されており、今でも広く国民の間で知られている。

 そして、生存したトルコ人を、軍艦でイスタンブールまで送り届けた軍人の中に、日露戦争の日本海海戦で参謀として大活躍をした秋山真之もいた。
 トルコ人の救出から95年もたった1985年、イラン・イラク戦争中に、イラクのフセイン元大統領が「今から48時間後にイラクの上空を飛ぶ飛行機は民間機でも撃墜する」という声明を発表した。

 当時の日本政府は、急な事態に対応が遅れた。そのとき、時間ぎりぎりにトルコの民間機が、テヘランに取り残されていた在留邦人215名全員を救出してくれた。
 外務省が問い合わせたところ、トルコ政府は「私たちはエルトゥールル号のことを忘れていない。だから、日本人が困っているのを知って助けに来た」と答えたという。私はトルコと日本の実にすばらしい友情物語を知り感動した。

■自衛艦に守られての船旅
 「2010年トルコにおける日本年」の日本側名誉総裁は寛仁親王殿下である。殿下はトルコの行為を「海で助けてもらった恩義を空でお返しをするということ」と表現しておられる。
 一方、日露戦争は、帝国主義時代に、アジアの小国であった日本がロシアの南下を食い止め、国家の安全と独立を保ったが、この勝利は日本だけでなく、世界にも大きなインパクトを与えた。

 その一つがロシアの脅威にさらされていたトルコであった。日本の勝利を喜んで、イスタンブールの街では、息子や孫の名前を、東郷平八郎元帥や乃木希典大将にちなんで「トーゴー」や「ノギ」と名付け、「トーゴー通り」ができたほどである。私たち日本人は、案外このような事実を知らない。
 そして、トルコ人は今でも、日本人が好きで親近感を示すのを今回の船旅で実感した。

 2005年以来、私は仕事をかねて日本最大の客船「飛鳥2」に乗り船旅を楽しんでいる。旅、特に外国への旅は、私たちを日常生活から解放し、新しい世界を開かせてくれる良い機会である。
 快適な船旅をすることにより、乗客の病状などが改善する事例に毎回であう。これは環境を変えることにより、良い遺伝子がオンになるのではないかと考えている。

 今年は、以前にはない貴重な経験をした。その一つは、海賊対策として自衛艦に守られながら、アラビア海およびアデン湾を4月下旬に通航したことだった。「飛鳥2」を含む十数隻の船は、海上自衛隊護衛艦2隻、国土交通省、英国情報収集機関(UKMTO)とも密接に連絡をとりながら通航した。

 その数日間、乗船客は昼夜を間わず、オープンデッキ、客室のベランダには出ず、窓際には近づかなかった。さらに、夜間はオープンデッキの照明はすべて消灯し、部屋のカーテンを閉めて、室内の照明が外に漏れないようにした。乗客たちは、太平洋戦争中の灯火管制を久しぶりに思いだした。
 
■世界に良い影響与える国
 警護が終了した際、乗客は自衛艦やヘリコプターの隊員に手を振り、「ありがとう」の垂れ幕を揚げて感謝の気持ちを表した。その時、多くの乗客には熱い想いがこみ上げてきた。
 日本の国内にいると、海賊の出現などという事態を、なかなか実感できないが、国際情勢は、日本にいる私たちが考えている以上に厳しいことを感じた。そして、自衛隊の存在や役割について考える機会にもなった。

 そもそも、自衛隊は発足以来、国民から十分に評価されてこなかったように思う。生命の危機を伴う業務に従事させながら、それを政治家や国民が十分に認知しないのは正しくないように思った。
 話は変わるが、いま、最も良い影響を世界に与えている国の最上位に日本が挙げられている。この世論調査は、米国メリーランド大学と英国のBBC放送が、27カ国の約2万8000人を対象に行って、2007年、世界600のメディアで発表された。

 日本は、高い技術力を持ち、平和国家であり、海外でのマナーの良さなどが評価されている。日本にいると、日本はますます悪くなっているように感じるが、世界の評価は少し違うように思った。

(村上和雄:筑波大学名誉教授)

(産経新聞 2010-6-14)



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