仏像ガール……廣瀬郁美(ひろせ いくみ)さん



 にっこりとした薬師如来。そそり立つ毘沙門天。涙をためたような薬師三尊……。仏像って、自分の心の状態によって、見え方や感じ方が変わるから不思議です。
 4年前、「仏像ガール」として活動し姶めました。「人生をかけてやりたいことは何だろう」と考えて、「仏さまの魅力を伝える」ことに行き着きました。つらい時やさびしい時、いつも助けてくれたのが仏像で、心の支えだったからです。

 大学で仏教美術を学んだとはいえ、私は研究者ではありません。日本全国を旅して出会った仏像のこと、自分が感じたこと、地域の方に聞いたことなどを講演会やテレビ、ラジオ、コラムの執筆などを通じて楽しくお伝えしています。
 「もっと多くの人が、気軽に仏像に親しんでくれたら」という思いから始めた活動ですが、いつの間にか、小さな子どもからお年寄りまで、大勢の方にお話しする機会をいただくようになりました。講演後、「仏像に会いたくなった!」というみなさんの声を聞くと、本当にうれしいのです。

 実は私、いじめられっ子でした。小学生の時は毎日のように「死んじゃいたい」と思っていました。でも中学生の時に父をがんで亡くし、死への恐怖心でいっばいになったんです。迷いに迷って、初めてのひとり旅で行ったのが京都の三十三間堂。高校生の時でした。
 大粒の涙がこぽれました。千手観音さまが1001体。寸分の狂いもないかのように並んでいるお姿に感動しただけではありません。これらを作り、直し、守り、拝んできた何千、何万人という人々の優しさが見て取れて、心に染みたからだと思います。

 仏像の魅力って、結局は人間の力だと思います。お寺の中で大切に守られているキラキラの仏像も、どこかが壊れてしまった仏像も、道ばたの石仏も、みんな仏像。たくさんの人々に大切にされ、みんなを見守ってくれている。見守られているからこそ、人々も安心して元気に過ごせますよね。仏像の周りにはいつも、こういう元気や優しさの循環があります。

 「仏像って難しい」。そう感じる人も多いと思います。でも、私が勧める仏像との出会い方は、とっても簡単。なによりも「感じる」こと。まずは頭も心も空っぽにして、仏像に会いに行ってみましょう。仏像に向き合い、好きなように感じる。「大きいなあ」「かわいい!」。なんでもいいです。知識を詰め込むより、自分の心を使って仏像に向き合うのです。

 目、口元、耳、手の形、服装……。仏像と時をすごし、気になることがでてきたら、お坊さんや地域の人たちに話を聞いてみましょう。昔のできごとや、守っている人のことなど。目の前の仏像から、温かくて優しい人間の姿が浮かんでくるはずですよ。

(朝日新聞 2011-7-26)



目次   


inserted by FC2 system