ノルウェー連続テロ事件



 76人の犠牲者を出したノルウェーの連続テロ事件で逮捕されたアンネシュ・ブレイビク容疑者(32)は22日の事件直前、1518ページの大量の声明文書をネット上に公開していた。なぜ、どうやってテロを計画・実行したのか。文書を通じ、探った。

 文書で容疑者が敵意をむきだしにするのがイスラムと多文化主義だ。イスラム教徒を移民や難民として大量に送り込み、欧州のキリスト教文明の征服をたくらんでいると警告。多民族・多宗教の共生を目指す考え方や政策を「文化的マルクス主義」と勝手に名付けて批判した。「現代のテンプル騎士団」を自称して宣戦を布告している。

 ー見、荒唐無稽な主張だが、移民の大量流入が欧州独自のアイデンティティーを損なうとして、「寛容な政策」からの転換を掲げる点では、欧州各国で勢力を広げる右派政党の主張と相通じる。ブレイビク容疑者もかつてノルウェーの右派・進歩党に所属。反イスラムのトーンを弱めるなど穏健路線で、選挙による勢力拡大を目指す右派政党に飽き足らない過激派が増えている可能性がある。

 ユダヤ人など少数者社会を攻撃してきたネオナチと違い、こうした右翼過激派が政府や与党を攻撃対象にしたこと、大組織に入らず個入で活動するため動きが把握しにくいことに各国は懸念を深めている。
 一方、容疑者が文書で絶賛するのが「日本」だ。厳しい移民政策や難民認定の少なさを挙げ、「多文化主義を拒絶して経済発展を成し遂げた」としている。会いたい入物として、ロシアのプーチン首相や旧ユーゴスラビア戦犯のカラジッチ被告と並んで、麻生太郎元首相の名を挙げた。

 ブレイビク容疑者の父親は外交官で、リベラルな家庭に育ち、パキスタン系の友人もいたという。だが10代半ばから過激な右翼思想に傾倒。文書によると2002年に欧州のイスラム化と戦う秘密結社を結成し、09年にテロ決行を決意。爆弾の材料となる化学肥料を入手するため農場を経営。銃を入手するためライセンスを取得するなど周到に準備を進めてきた過程も文書に詳細につづられている。

 容疑者は右翼系サイトに活発に投稿していたが、犯行自体は単独との見方が有力だ。今回のテロでも駆けつけた警察官にあっさり投降。自らの考えを主張できる勾留延長審理の公開を求めたことなどから、派手な事件を起こしてネットの外の現実社会で注目を集めようとする意図もうかがえる。

(朝日新聞 2011-7-27)



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