米軍、核使用に聖戦論……発射担当、聖書で教育



 米空軍が、有事の核ミサイル発射を担う将校向けの訓練の一環として、キリスト教の「聖戦」論を20年以上にわたり講義してきたことがわかった。「憲法の政教分離原則に違反する」との指摘を受け、今年7月末に突然、取りやめていた。

■原爆使用も正当化
 米国と旧ソ連・ロシアの間では、冷戦末期から核軍縮が進展。核保有の必然性や使用の可能性は薄れてきた。民主的な議論とは無縁の「神話」によって、核の道義的な正当化を試み、延命を図ってきたことに、懸念の声が出ている。

 問題の講義をしていたのは、カリフォルニア州にあるバンデンバーグ空軍基地。ミサイル発射を担当する空軍の将校は全員、この基地で核について訓練を受ける。憂慮した複数の軍人から通報されたNPO「軍における信仰の自由財団」が情報公開制度で資料を入手、問題が明るみに出た。

 取材に答えた空軍教育訓練司令部によると、訓練初期にある倫理の講義を担当する従軍牧師が用いた資料が、「核の倫理」という項目で、旧約・新約聖書の記述を多数引用していた。
 キリスト教の聖戦論を引き合いに「旧約聖書には、戦争に従事した信者の例が多い」と指摘したり、聖書の記述として「イエス・キリストは強い戦士」と位置づけたりしていた。

 資料はその上で、広島への原爆投下にも言及。被爆地の写真や被爆者の顔写真を掲げ「8万人が即死」などと威力の説明を加えた。
 だが、続く説明で「東京大空襲は一夜で8万〜10万人が死亡」と、被害を相対的に少なくみせるように記述。原爆投下を決めたトルーマン大統領就任時の米兵死者が「1日平均900人以上だった」と主張し、また「日独は、もし原爆を先に開発したら使うと明書していた」とも指摘。事実上、原爆使用を正当化した。

 米国は核兵器を抑止力として位置づけ、攻撃を受けた際の報復手段としては使用が正当化されうるとしてきた。元空軍将校で、ホワイトハウス法律顧問も務めたワインスタイン同財団理事長は「核発射の判断を宗教と結びつけるなど、正気の沙汰ではない」と語った。

(朝日新聞 2011-8-4)



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