「全能神」の取り締まり強化



 「世界が終わる」とのデマをあおったとして、中国当局が、宗教集団「全能神」の取り締まり強化に躍起になっている。当局によると、宗教集団は中国共産党を「赤い竜」と呼び、「決戦」を呼びかけているという。体制を揺るがしかねない宗教による組織力を前に、メディアを使った大々的な宣伝戦が展開されている。

■容疑者父「関係ない」
 河南省信陽市光山県の小学校に刃物を持った男(36)が現れ、児童らを襲ったのは14日朝だった。小学生23人が負傷。中国メディアは「終末論に刺激を受けた暴徒が事件を起こした」(人民日報)と大声的に報道し、全能神の教えに影響された男による凶行だと伝えている。
 23日に同県の病院を訪れると、入院中の6歳の少年の後頭部には、5センチほどの切り傷が残っていた。「怖くなかった」と屈託なく笑っていた少年は、男の言葉を思い出すと真顔になった。

 こう言ったんだ。『みんな死んでしまえ』って」
 小学校の目の前に住む向家英さん(84)も襲われ、顔面に傷を負って入院していた。左目があけられない。「震えが止まらなかった」と当時を振り返った。
 男は事件当日、突然向さんの家に押し入り、「火をおこせ」とどなった。薪がないと答えると、いきなり向さんの腰を蹴り上げ、テーブルにあった刃渡り25センチの中華包丁で切りつけたという。

 男が包丁をつかんだまま向かった先が、小学校だった。門の近くで児童を襲い、さらに校舎の1〜3階で刃物を振り回した。
 男の家は、小学校から車で10分ほど離れた場所にあった。取材に応じた父親(66)は「息子は(全能神を)信じていない。家族も信じていない。この村の誰も信じていない」とまくし立てた。
 父親によると、男は病気で、この2年ほどは仕事をせず家にいた。両親と娘2人と暮らしており、妻は出稼ぎに出ていた。男が全能神について語るのは聞いたことがないという。

 中国紙の集計によると、青海省、貴州省をはじめ全国16の省で、全能神との関係があるとして拘束された人は計約1,300人に上っているという。

■終末論流布、組織力を警戒
 中国人民公安大学の武伯欣教授によると、全能神は黒竜江省ハルビン市近郊の物理教師だった趙雄山氏(61)が創設。趙氏は世界に災難が訪れると予言。1995年、河南省の女性を「キリストの生まれ変わり」とし、布教を本格化させた。
 信者には社会的、経済的に弱い立場にある農村部の女性が目立つという。貧富の格差や官僚の腐敗、医療制度の不備などをめぐり、共産党政権を批判。95年ごろに、中国政府から「邪教」と認定された。趙氏が90年代末に米国に逃れた後も信者は増えていた。

 武教授によると、今月7日、米国から中国全土の信者に「街頭に出て、終末日の到来を宣伝せよ」との指令が出たという。「公安当局はこれを宣戦布告と受け取った」と武教授は話す。

 暗号を使った「指令」は、中国を9つの教区に分けたピラミッド型の組織を通して素早く浸透。多くの信者が街頭でビラを配った。制止を求める警察に反発し、警察の建物を取り囲む騒ぎも起きたという。党関係者は「中国に邪教とされる集団は少なくない。政府が神経をとがらすのは現代的な組織を持つかどうかだ」。当局は、全能神が示した組織力に衝撃を受け、メディアを巻き込んだ弾圧に踏み切つた模様だ。

(朝日新聞 2012-12-25)



目次   


inserted by FC2 system