仏の教えは通じない



 エジプト革命のあとイスラム厳格派(サラフィー)が勢いづくカイロで、サラフィー系テレビ局を取材したときのこと。
 局長はご多分に漏れずあごひげを長く伸ばした厳格派の男性だった。敬虔なイスラム教徒に会うと、必ず聞かれる居心地の悪い質問がまず飛んできた。「何教徒ですか」

 「仏教徒です」。そう答えると、とても残念そうな顔をされる。一神教のイスラムでは、仏教のような偶像崇拝は厳しく否定される。本当は仏教徒と言えるほどでもないのだが、無神論は中東ではタブーである。
 「仏教徒は、死んだ後どうなるのですか」と局長。「仏教にも天国はありますが、輪廻転生という思想もあります」。説明すると、表情が固まった。うわずった声で「生前の善悪を誰が判断できるのですか」と詰め寄られた。「それは、えんま大王かと」。つい正直に答えると、先方は絶句してしまった。

 「あとで夕食をとりながらさらに話をしたい」と引き留めるのを丁重に断り、局を後にした。こんなのを仏教では「禅問答」って言うのかも。

(朝日新聞 2012-12-29)



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