天皇陛下の冠動脈バイパス手術、無事終了



 東大病院で行われた天皇陛下の心臓の冠動脈バイパス手術(狭心症の治療が目的)は18日午後、無事終了した。
 執刀医の天野篤・順大心臓血管外科教授と小野稔・東大心臓外科教授らによると、人工心肺は使わず、心臓が動いたまま手術する「心拍動下冠動脈バイパス術(Off−pump CABG)」を行った。

 胸骨の裏側に張り付いている左右の「内胸動脈」を剥がし、左内胸動脈(LITA)を左前下行枝(LAD)に、右内胸動脈(RITA)を冠動脈の左回旋枝(LCX)に吻合した。出血はほとんどなく輸血の必要はなかった。

 また、手術中に不整脈を認めた(心房細動)ため、左心房の一部(左心耳)を糸で縛る処置を行った。これは合併症である脳梗塞予防の処置である。心房細動が起きるとこの部分(左心耳)で血の塊ができやすい。万が一、血の塊が心臓から脳に飛べば脳梗塞を引き起こすことがある。

 午後2時57分に手術は終了し、陛下が麻酔から覚醒されるのを待って同3時55分に手術室を出てICUに移った。今後は19日にもベッドを離れて立つなどのリハビリを開始する予定。順調なら、20日にICUを出て、病室に戻れるという。その後は、心不全につながる恐れもある不整脈や、感染症(縦隔炎など)が起きないよう術後の管理を徹底する。順調に回復すれば約2週間で退院できる見通し。

 退院後も、再び血管が詰まるのを防ぐため、コレステロールを上げないように脂肪分を控えた食生活や、ストレスがかかるようなことは控える必要がある。医師団は「これまで同様、血管を詰まりにくくする薬を継続して飲むことが必要」と話す。

■手術終了後の医師団の記者会見
 ……手術は成功したといえるか。
小野稔・東大心臓外科教授
 予定通り順調に終了した。チームワークも非常に良く、特にプレッシャーもなく順調に行うことができた。

天野篤・順天堂大心臓血管外科教授 
 陛下がご希望されたご公務ないし日常の生活を取り戻されるという時点が、とりあえず成功ということを話題にしていい時期だと思うので、成功かどうかの判断はやや尚早かと。治療はそのような状況が達成される日まで継続するし、その日が来るのを我々も楽しみにしている。術中に特別気になる点はなかった。

■天野篤・順大教授
 「成功かどうかは望まれる生活が送られるかどうか。その時を楽しみに待ちます。」
 記者会見で慎重な口ぶりながら自信に満ちた表情も見せた天野篤・順天堂大心臓血管外科教授。今回の手術では執刀チームの中心となった。

 埼玉県出身。周囲によると、高校時代に父親が心臓手術を受け、心臓外科医を志した。83年に日本大学医学部を卒業すると、医局とはつながりのない病院で研修医生活をスタート。医師に対する医局の影響力が強かった当時としては異例で、その後は心臓手術の実績のある亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)で腕を磨いた。

 新東京病院で天野教授を指導した心臓血管研究所付属病院のスーパーバイザー、須磨久善医師(61)は「のみ込みが早く、教えたことを実践するだけではなく、必ず自分のアイデアを加える工夫をしていた。手術のことを四六時中考えていたのだろう」と振り返る。天野教授はよく「うちの病院に来た患者さんには必ず自分の足で歩いて退院してほしい」と言っていたという。

 新東京病院で医師仲間だった医療法人社団「めぐみ会」の田村豊理事長(55)は「自分だけでなく、周りのスタッフにも高いレベルの仕事を求める厳格な人だった。それだけに患者さんからは大きな信頼を得ていた」と話す。
 02年から現職。技術は日本屈指と称され、ドラマや映画になった「チーム・バチスタの栄光」では医療監修や指導を務めた。今回の陛下の手術でも、不整脈の発生を想定し、冷静に対処した。

 大役を果たした後、大勢の報道陣を前に胸を張った。
「普段通りの手術を普段通りにしたということです」

(毎日jp 2012−2−20)



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