米金融規制法、先送り?



 金融危機の再発防止をめざす米国の金融規制強化法の本格運用が、当初予定の今年7月から遅れる可能性が出てきた。規制を受ける金融界とその後押しを受けた議会、日本など海外当局が反発し、細かなルールづくりが遅れているためだ。ガイトナー米財務長官は新聞に寄稿して怒りをぶちまけた。

 金融規制強化法は、2008年のリーマン・ショックを反省してオバマ政権がまとめ、10年7月に成立した。銀行が自らの資金でリスクの高い投資をし、連鎖的に資産が焦げ付いて金融危機が起きたとの見方から、銀行の高リスクな投資を制限する「ボルカー・ルール」を目玉とする。
 ただ、銀行自身の投資と顧客の資産の運用の境目をどこに置くのかなど、具体的な中身を定める膨大な規則の策定に時間がかかっていた。米政府は一般からの意見募集を経て、7月に運用を始める予定だった。

 しかし先月締め切った意見募集には、約1万7千件の声が寄せられた。ゴールドマン・サックスなど金融大手が「顧客向けに行っている値付けのための証券取引までしにくくなる」と反発。日本や英国政府は、米国以外の国が発行した国債の短期売買を禁じている点を問題視、規制の対象外にするよう求めている。

 米議会でも野党・共和党を中心に、金融界の後押しを受けて規制への反対が根強い。米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長は1日、上院銀行委員会での証言で「存在しないルールに人々を従わせるわけにはいかない。これから2年間の『適合期間』もある」と述べ、ルールの確定と本格運用が7月から後にずれる可能性を示唆した。

 一方、ガイトナー米財務長官は怒りが収まらない様子。米経済紙ウォールストリート・ジャーナル(3月2日付)に「金融危機の記憶喪失」との題で意見を寄稿した。「危機からわずか4年で、米国が完全な金融崩壊目前にいたことを忘れてしまった人がいるようだ」と金融界や議会を非難した。

■金融規制強化法の主な中身
・銀行が自己の利益拡大のために行う自己勘定取引(米国債の取引をのぞく)は原則禁止
・銀行によるヘッジファンドやプライベート・エクイティファンドヘの投資を厳しく制限
・金融システム上重要な金融機関を指定して厳しく監視
・消費者保護のための新組織を設置

(朝日新聞 2012-3-3)



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