脱原発の攻防……危ないものは高い



 「原発は決して安くない。早くやめ、再生可能エネルギーに切り替えたほうが税金も節約できます」
 基本問題委員の立命館大学教授・大島堅一(45)はいう。原発を15年かけてやめるとして計算すると、国全体で年に平均約2兆6400億円の費用が浮く。原発を動かす費用や再処理費用のほか、電源三法による交付金などの財政支出をなくせるためだ。

 そのかわり、再生可能エネルギーが普及するまでは火力発電に頼らざるを得ないから、その燃料費がかかる。それに再生可能エネルギーの普及のための費用。平均して年に約2兆円が必要になる。つまり、原発をやめれば差し引き約6千億円の得。
 「おおざっぱな概算なので今後、精査が必要ですが」という大島は、一橋大の大学院生の時に高木仁三郎らの勉強会に参加し、伴英幸とも知り合った。そのとき、高木に頼まれた。

 「原発は本当に経済的なのか。それを総合的に研究してください」
 電力会社の財務書類から、電源交付金や放射性廃棄物の処理費もみつけ、原発の費用を計算した。それは2010年、「再生可能エネルギーの政治経済学」(東洋経済新報社)という本になって実を結ぷ。続いて11年、「原発のコスト」(岩波新書)という本も出た。
 「高木先生から宿題をいただいた。やっとそれを果たせた、と思った矢先に原発事故が起きたのです」

 故郷は福井県鯖江市。子どものころ、県内の原発を見学した。近所には、原発建設に参加して誇らしげな大人もいた。だがチェルノブイリ事故で「原発は安全」という神話が崩れた。それが高木の勉強会に参加したきっかけだった。
 「危ないものは保険費用が高い。それはすなわち、経済的に高くつくということなのです」

 いま、全国の原発が止まっている状態で火力発電の費用がかさむ。東京電力は電気代値上げを発表した。電力業界も経済界も再稼働を求める。このままでは発電の費用がかかりすぎる、と訴える。しかし、と大島はいう。
 「原発をただ止めるだけではだめです。やめないかぎり、維持費も財政の費用もかさむ。しかも火力発電増設との二重支出になる。だから今の状態が、費用は一番かかってしまうのです」

(朝日新聞 2012-6-3)



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