文鮮明氏死去



■統一教会、被害今も
 「霊感商法」とのかかわりが社会問題化し、1990年代には「国際合同結婚式」が関心を集めた世界基督教統一神霊協会(統一教会)。その創始者が3日、死去した。被害は形を変えて今も続いており、教団の過激化やトラブルの増加を懸念する声もある。
 「聖本を家に入れなければ母親は助けられない、助けられるのは教会だけだ」

 福岡県内の50代の女性は2000年4月、統一教会の複数の信者から1冊約3千万円する創始者・文鮮明氏の説教集「聖本」を計10冊買うよう求められた。信者は「お母さんが心臓病なのは先祖の罪を背負っているからだ」と言った。
 女性は強要されて財産を奪われたと提訴。福岡高裁が今年3月、統一教会の違法性を認めて約3億9千万円の支払いを命じ、確定した。判決では過去最多の賠償額だ。

 統一教会をめぐっては、かつては不安をあおって高額のつぽなどを買わされたと訴える声があった。全国霊感商法対策弁護士連絡会によると、最近は福岡の女性のように説教集をめぐる被害が増えている。
 連絡会に寄せられた相談は、霊感商法が社会問題化した1987年以降に計3万2千件で、被害額は1129億円に上る。
 被害者救済に取り組む紀藤正樹弁護士は「統一教会のいまの仕組みでは霊感商法以外に資金集めができない。街頭での勧誘は増え始めている」と指摘する。

■合同結婚式で話題
 社会の関心を集めたのは、トップアイドルだった女性歌手ら芸能人が参加した1992年の国際合同結婚式だった。面識がない男女を、本人の意思とは無関係に教団が結ぶ儀式だ。2万組を超える男女がソウル市内のスタジアムに集まり、文氏の祝福のもとで式を挙げた。

 大学入学直後、関連団体め原理研究会に勧誘された都内の会社員女性(49)も88年、合同結婚式に参加した。韓国人男性の写真を渡されて結婚。だが、夫は暴力をふるい、子どもを虐待した。約10年後、離婚を決意し、帰国したという。
 女性はいまも、韓国に残る日本人信者らと連絡を取り続けている。「被害は続いているんです」

■相続争い表面化
 文氏の死後、統一教会はどこへ向かうのか。日本脱カルト協会などによると、文氏には10人以上の子どもがいる。教会の運営は七男が継承するが、財産の相続を含めた紛争が顕在化しているという。日本脱カルト協会代表理事の西田公昭・立正大教授は「組織分裂の可能性もある。それれぞれが正統性を誇示する中で、信者の獲得や財産の収奪を強めることも予想される」と話す。

【統一教会をめぐる主な動き】
1954年 文鮮明氏が韓国・ソウルで「世界基督教統一神霊協会」を創始
1959年 「日本統一教会」設立
1964年 宗教法人の認可を受ける
1968年 文氏、反共産主義をかかげる政治組織「国際勝共連合」を結成
1984年 文氏、米国で所得税法違反により禁鋼1年6ヵ月の有罪判決を受け、服役
1987年 「全国霊感商法対策弁護士連絡会」が組織され、統一教会が関係するとされる「霊感商法」を追及
1992年 ソウルでの合同結婚式に、日本人の歌手や元五輪新体操選手らが参加
     文氏の入国をめぐって、金丸信元自民党副総裁が法務省に打診していたことが明らかに
1997年 統一教会に多額の献金を払わされたとした損害賠償訴訟で、最高裁が霊感商法の違法性を認める
2001年 元信者が精神的自由を奪われたとして各地で損害賠償を求めた「青春を返せ訴訟」で、統一教会が最高裁で敗訴
2002年〜 文氏の説教集「聖本」が高額で売られる
2004年 合同結婚式をめぐる元信者の損害賠償訴訟で、統一教会が最高裁で敗訴

(朝日新聞 2012-9-4)



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