中国で空前の宗教ブーム





 10月13日放映のNHKスペシャル「中国激動 さまよえる人民の心」を興味深くみた。
 中国は1949年の建国以来、憲法で宗教を利用して社会の秩序を破壊することを禁止してきた。中国共産党は無神論の立場に立つ。1960年代末の文化大革命時には、キリスト教会が破壊されて宗教が弾圧された。それ以後も宗教は弾圧され、宗教と国家の関係は絶えず緊張関係あった。 

 ところが改革開放政策以降、中国政府の宗教に対する姿勢が変化した。当局の管理下において宗教の自由を認めようというのだ。とくに2007年以降、中国政府は宗教を利用して社会の安定をはかる方向へと方針転換した。中国政府の方針転換の背景にあるのは、貧富の格差拡大や共産党幹部の腐敗などによる社会不安である。

 鐙小平がうちだした「先富論」により、中国社会では拝金主義が蔓延している。金もうけがすべての社会。金もうけがうまい人が一番尊敬される社会。人を押しのけても自分だけが得するいびつな競争社会。その結果、倫理観がすたれ、道徳心が失われ、人と人のきずなが断ち切られ、思いやりや助け合いの精神がなくなり、中国の伝統的な社会が破壊された。豊かさから取り残された人々は宗教に救いを求めている。

 さらに、豊かさを手に入れた中間層や業で成功した人たちのなかにも、何かを失ったと思う人々が宗教へと走っている。そうした「さまよえる人民の心」を救う者として、空前の儒教ブームが起きている。

 子どもたちが儒学を学ぶ学校はすでに1万校をこえ、大人向けの塾も大繁盛である。「洗脚礼」といって、子どもが親の足を洗うことで親子の絆を深める伝統的な儀式が各地で行われている。また「老師」と言われる拝金主義から良心を取り戻した人たちが、集会で自分の体験を語る講演会が各地で盛況である。

 「伝統文化論壇」でも私利私欲の中国社会を批判する儒学が全盛で、孔子生誕祭も盛大に行われている。
 文化大革命のときは他の宗教同様儒教も弾圧されだが、いまや共産党中央党校の授業にも儒学を取り入れている。中国政府は共産主義と儒学を融合して、人民の支配に利用しようとしている。

 いっぽう、キリスト教では民家や集会所を利用した「家庭教会」といわれるものが流行している。キリスト教が貧しき人々に住む所や仕事を紹介し、生きる希望を与えている。

 こうした「家庭教会」をかつては弾圧した中国政府も黙認している。さらに農村ではキリスト教は政府に協力しながら信者を増やしている。政府もまた経済や社会の発展にキリスト教を利用している。その結果、キリスト教徒の数は1億人を超え、共産党の数をしのぐ勢いでふえている。

 急激な成長による格差拡大や腐敗による社会不安。中国社会に蔓延する拝金主義への危機感。そうした社会で、多くの人がお金だけではは幸せになれないことに、人と人のきずなの大切さや助け合いの精神の重要性などに気づいている。宗教や伝統思想が中国社会の大きなうねりとなって、「さまよえる人々の心」をつかんでいる。
 
(WEB:時代を駆ける 2013-10-14)



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