消えゆく教会……ヨーロッパ



■信者減り、進む転用
 欧州で、キリスト教会が閉鎖される事態が静かに広がっている。背景には現代人の宗教離れや、信仰のかたちの変化があるようだ。教会に代わって、地域の人々が集う場を提供しようという動きも出ている。
 大丈に育ったリンゴの木にこの夏、小さな実がついた。ドイツ・ハンブルクのカペルナウム教会がモスク(イスラム礼拝所)に改装されることになり、昨秋、教会関係者とイスラム団体が友好の証しにと敷地に植えた若木だ。

 「こんな立派な施設で祈れるなんて、喜ばしい」とイスラム団体代表のダニエル・アブディンさん(50)。外観は変えないが、床にカーペットを敷きつめるなど大がかりな内装工事をこの秋に始める。

 戦後、旧東独から逃れてきた市民のために建てられた多くの教会のひとつだった。だが教会に通う信者が年々減って維持が難しくなり、10年前から礼拝もなくなった。取り壊しが検討され始めた時、イスラム団体が150万円ユーロ(約2億円)で購入を申し出た。 「ガソリンスタンドや量販店などの商業施設になるより、信仰の場であり続ける方がうれしい」。

 教区を引き継いだ隣の教会のジュール牧師は喜ぷ。とはいえ教会がモスクになることは反響を呼び、右翼の反対デモもあった。アブディンさんも「礼拝や行事がない日は市民の文化活動に使ってほしい。開かれたモスクにしたい」と気遣う。
 英ブリストルのセントポール教会はサーカス練習場として「第二の人生」を送る。18世紀末に建てられた古い教会だが、信者が減って1990年代から廃虚のような状態だった。

 空中ブランコなどの練習用に、天井が高い建物を探していたサーカス学校が7年前に教会を改装した。教会の活用を学校に働きかけたのが英NGO「教会保存トラスト」だ。古い教会の維持修繕を手がけてきたが、近年は、使われなくなった教会を地域の集会所や医療機関など、用途の違う施設として再生する活動に力を入れる。
 キリスト教会の荒廃は、欧州全域で進む。英国教会の場合は1年に25の教会が閉鎖されている。

 最大の理由は宗教離れ。2011年の英国の国勢調査で「キリスト教徒」と答えた人は59%と、10年前の72%に比べ大幅減。4人に1人が「無宗教」と答えた。フランスでも、毎日曜日に教会に通う人は4%。
 宗派構成が変わったところも多い。中世は宗教改革の拠点だったハンブルクは今、トルコや中東からの移民が増え、人口の5%がイスラム教徒だ。

■絆育む新たな場担う動き
 教会は地域の人々を結びつける役割を担ってきた。そうした人々の絆を育む場を、信仰に関係なくつくろうという試みがある。
 「イースター(キリスト教の復活祭)が春の祝祭なら、僕たちにだって祝う権利はあるよね。一緒に歌って語り合おう」
 教会を改装したロンドンのイベント会場。壇上でコメディアンのサンダーソン・ジョーンズさんが呼びかけると、客席を埋めた約400人から「ウォー」という大歓声が上がった。

 ジョーンズさんたちが今年始めた「神を信じない人の日曜集会」が人気を集めている。春の復活祭を祝うイベントでは、ロックバンドの演奏に合わせた合唱や人気作家の講演などがあった。30代前後の若い層が大半だが、年配者もいる。
 「都会では近所の人と知り合う機会が少ない。ここに来れば地域の一員になれる気がする」とランダさん(26)。IT技術者のロバートさん(29)は「神は信じない。でも他人との絆はほしい」という。

 教会も、熱心な信者以外への働きかけを強める。
 ドイツ・ミュンヘン郊外のフライマン教会では、ロックバンドが演奏する若者向けの礼拝がある。登山から英語やヨガ教室まで、カルチャーセンターのような活動を展開する。「一家そろって教会に行く時代ではない。個人の志向に合わせた活動で教会につなぎとめねば」とリーポルト牧師。

 ミュンヘン大学のティム・ローレンツェン博士(教会史)によると、教会離れの背景には、信仰を個人の問題と考える人が増えたことや、信仰の仕方について指図されるのを嫌がる風潮などがある。「教会はこの変化をとらえて、活動の幅を広げるべきだ」と提言する。

(朝日新聞 2013-10-1)



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