韓国系教会、増える洗礼……釜ケ崎



■仕事減、高齢化する労働者
 日本最大のドヤ街、大阪・釜ケ崎で、韓国系キリスト教会の信徒が次々と誕生している。大半は元野宿者。日雇いの仕事が減り、行き場を失った人たちだ。
 釜ケ崎近くの在日大韓基督教会・浪速教会。年末の洗礼式には約40人が集まっていた。

 洗礼を受ける2人は62歳と45歳。ともに日雇い労働者で、1人はアルコール依存からの脱却を、1人はギャンブル漬けの生活からの更生を誓って入信した。

 釜ケ崎で「キリスト教」は圧倒的な存在感をみせる。越冬夜回り、孤独死対策、アルコール依存症対策……。浪速教会は毎週、公園にワゴン車を出しておにぎりとみそ汁の炊き出しをしている。多い時には約200人が列をなす。「教会さまさまやけど、食いつなぐため」。そう話す野宿者もいれば、信仰へと向かう人もいる。

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「おいしいおいしい、おみそ汁ですよー」。大きな声で振る舞う男性(63)がいた。教会住み込みのスタッフで、毎朝夕、信徒宅を回り、励まして歩く。信徒の多くは高齢者で、アパートで独り暮らしだ。

 彼もかつては野宿者だった。取材には、関東で勤務医をしていたと語った。「10年ほど前に患者が死亡する医療事故に関係して、上から目線で看護師、患者に接してきた自分を変えたい、釜ケ崎で暮らせば変われるのではと思った」。昼は職安で横になり、夜は公設シェルターに泊まった。働くでもなく、食事は炊き出しに頼った。「量が定食屋の倍。浪速教会は野宿者の気持ちを分かっていると思った」

 もともと禅宗の檀家で改宗など考えたこともなかった。食事目当てに通ううち「一番貧しく弱い者にすることは、イエス様、神様にするのと同じく尊いこと」という牧師の言葉にひかれた。自分を変えられるかもしれない。そう思って教会スタッフになった。

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 今、釜ケ崎で布教する韓国の教会は4教団。韓国系教会の支援を受ける日本の教会もいくつかある。浪速教会は「成功モデル」と言われるが、金鐘賢牧師(55)は戸惑いがあるという。

 1996年に来日。在日同胞の救援のつもりで始めた釜ケ崎の炊き出しに、たくさんの日本人が並んだ。信徒になった野宿者には、アパートに入り、生活保護を受けるよう手助けをしている。だが、暮らしに余裕がでると、信仰を放棄し、酒浸りの生活に舞い戻ってしまう人も少なくない。

 「経済的に一息ついても、ひとりぼっちから抜け出せるわけじゃない。そんな人たちにこそ、信仰が必要なんですが」
 釜ケ崎のキリスト教会は長い間、布教に抑制的だった。共闘関係にあった労働運動が牽制してきたことが大きい。だが、90年代後半、関西空港の開港などで大型の事業が終わり、日雇い労働市揚がしぽんだ。

 「かつて労働運動が日雇いの人々を支えたが、労働市場の縮小とともに退潮した。代わって、しがらみのない韓国のキリスト教会が食事付きの伝道集会を始め、野宿者が集まった」。大阪市大・都市研究プラザ博士研究員で、釜ケ崎を見続けている社会学者の白波瀬達也氏は分析する。大阪市によると、この地区の住人約2万6千人のうち65歳以上の高齢者は約40%を占める。

■感謝のアルミ缶「献金」
 昨年11月の深夜、浪速教会前にパトカーが横づけされた。10キロ以上離れた兵庫県尼崎市まで歩き続けた信徒(75)が保護され、警察が送り届けてくれたのだ。7年前の入信以来、家出は69回を数える。
 西日本のミカン農家で育ち、万博の整備事業でわく大阪に。結核を患い、古紙や空き缶をカネに換えながら、全国のドヤ街を転々とした。舞い戻った大阪で、リヤカーの中で行き倒れ同然のところを教会関係者に助けられた。

 今は古い2Kのアパート暮らし。持病が気になるたぴ、いてもたってもいられなくなり家出を繰り返す。それでも教会には温かく受け入れてくれる家族のような仲間がいる。感謝の気持ちを示そうと、アルミ缶を拾っては「献金」と言って教会に届けている。
 男性は朝、教会で祈っている。天国に行けますように。

※釜ケ崎
 大阪市西成区にあり、「あいりん地区」とも呼はれる。一間3畳ほどの簡易宿所(ドヤ)が密集し、高度成長期は東京・山谷や横浜・寺町と並ぶ日雇い労働者の街としてにぎわった。90年代に野宿者が急増。最近は生活保護を受けてアパート暮らしを始める人が増え、孤独死が問題になっている。

(朝日新聞 2013-2-25)



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