根深い女性軽視……インド



■幼い3姉妹殺害、相次ぐ性犯罪
 急増する性犯罪が社会問題化しているインドで、再び残酷な事件が起きた。6歳と9歳、11歳の3姉妹が性的暴行を受けた後に殺され、井戸に捨てられた。地元政府も異例の対応を取り始めた。
 インドを東西に走る約2千kmの国道6号線のほぼ中央に位置するマハラシュトラ州ムルマディ村を、記者は訪ねた。3姉妹が住んでいた、れんがとセメントで造られた平屋建ての住居の前には、やじ馬が群がっていた。

 取材に応じた母親(29)らによると、14日朝、3姉妹はそれぞれの学校に出かけていった。ところが、長女が午後1時ごろ、次女と三女が通う別の小学校に行って「お母さんが呼んでいる」と2人を連れ出したという。3人で学校を出たまま消息を絶った。

 3人の遺体が村はずれの農地にある深さ約10mの井戸で見つかったのは16日夕。3人とも性的暴行を受けていた。母親は「娘たちは変な男につきまとわれたというようなことは何も言っていなかった。なぜこんなことになったのか」と力のない声で話した。顔はやつれ、立ち上がるのもやっとの様子だった。

 周辺ではこれまで性犯罪はほとんどなかったという。殺された次女と三女が通っていた小学校に長女(9)が通うランジャナ・ミシュラさん(27)は娘の安全が不安で、送り迎えに加え、学校に様子を見にいくようになった。「自分自身も被害に遭うかも知れないと心配だ」と語った。
 警察は事件から10日を経ても容疑者を検挙できていない。また、3姉妹が行方不明になった後、遺体が見つかるまで捜索に動かなかったことでも批判を受けている。20日以降、住民らが国道を封鎖するなど抗議デモを行っている。

 インドでは昨年12月に首都ニューデリーで女子学生(23)が男6人に集団強姦され、死亡した事件をきっかけに全国的なデモが起きた。対策を急ぐ政府は今月、強姦罪の最高刑を終身刑から死刑に引き上げるなど性犯罪の厳罰化に踏み切った。
 今回の事件でも、州政府は被害者家族に地方の村人にとって巨額の100万ルピー(約170万円)の弔慰金の支払いを決めた。地元政治家らも相次ぎ被害者宅を訪問。21日には与党国民会議派の州代表が訪れるなど、かつてはなかった異例の対応を見せている。

 だが、女性への暴力は後を絶たない。ニューデリーでは24日夜、20代の女性がバス停近くで酒に酔った男2人に付きまとわれ、力ずくで連れ去られるのに抵抗し、男らに射殺される事件が起きた。少女へのレイプも各地で相次いでいる。

■女児中絶防げ、援助広がる
 「法改正より、女性に対する社会の考え方を変える必要がある」。そう話すのは医師のガネシュ・ラークさん(37)。マハラシュトラ州プネで産婦人科中心の病院を営む。
 インドには「消える女児」と呼ばれる問題がある。政府が禁止している胎児の性別判定による女児の中絶や、出生後に十分な医療を受けさせずに死なせるケースが相次いでいるとみられている。

 男女人口比も不自然だ。6歳までの男児1千人に対する女児の割合は日本は950人ほどだが、インド全体で914人。マハラシュトラ州は883人、首都近郊のハリヤナ州では830人しかいない。
 ラークさんは、産んだ赤子が女児とわかると「なぜ男じゃないの」と泣き出す母親の姿や、女児のお産費用をどちらが払うか父方と母方の家族同士が言い争う場面を何度も見てきた。

 昨年1月、病院で女児が産まれたら、平均で1万5千ルピー(約2万5千円)のお産費用を無料にする取り組みを始めた。ラークさんによると、費用の割引や女児中絶禁止の方針に賛同してくれた医療機関は3千に上っているという。

(朝日新聞 2013-2-28)



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