醜聞噴出……バチカン





■虐待隠蔽疑惑
 約11億人の信徒を擁するカトリックの総本山、バチカン(ローマ法王庁)のトップ、法王ベネディクト16世が退位した。教義に厳格で保守的であるがゆえ、約600年ぶりとなる存命中の退位には多くの謎が残る。異例の決断を機に、枢機卿による権力闘争、聖職者による子どもへの性的虐待問題といった退位の「真相」が噴出している。

 「対立心と分裂が教会をおとしめた」。ベネディクト16世は2月11日の退位表明後、バチカンの現状に対して苦言を呈し続けた。激しい「権力闘争」の存在を認めたものだった。
 欧米メディアでは、ドロドロした醜聞が連日のように報じられている。退位表明の直前、バチカンに衝撃的な「告発」がもたらされていた、と伝えたのは英紙オブザーバーだ。

 英国の力トリックで最高位の聖職者であるスコットランド・エディンバラ大司教のオブライエン枢機卿が1980年代から神学生に「不適切な行為」を強要していた、というものだった。オブライエン氏は性的虐待疑惑を否定しながらも大司教を辞し、「ローマで、新法王ではなく私に注目が集まることは望まない」と法王選挙(コンクラーベ)の欠席を決めた。

 また、米ロサンゼルス名誉大司教のマホニー枢機卿らも、聖職者による子どもへの性的虐待の発覚を隠蔽していた、としてコングラーベヘの出席を疑問視されている。

■法王退位きっかけ
 さらにイタリアの主要紙レプブリカは、同性愛で固く結ばれた聖職者たちがバチカンの要職を占めていることが発覚し、法王に退位を決断させた、と報じた。バチカンから機密文書が流出した事件に関する調査委員会がこの事実を把握し、法王に伝えていたという。「社会を破壊する」と同性愛を厳しく批判してきた法王にとっては、耐えられないことにほかならない。

 そもそも機密文書流出事件の背景には、ベネディクト16世の最側近で、次期法王侯補の一人であるベルトーネ国務長官(首相に相当)とほかのイタリア人枢機卿との権力争いがあるとされる。

 ベルトーネ氏は前法王のヨハネ・パウロ2世に近い勢力を排除しようとして多くの枢機卿と対立。バチカンの資金を管理・運用し、通称「バチカン銀行」と呼ばれる宗教事業協会の情報公開にも、「バチカンの力を失わせる」と反対したとされる。ベルトーネ氏をめぐる汚職や縁故主義を告発する文書も次々と明るみに出た。だが「学者肌」のベネディクト16世には政争を鎮める力はなかった。

 85歳となったベネディクト16世は今年に入ってから、バチカン内で散歩していて倒れたところを複数の人に目撃されたという。自らがさらに老いた時、教会がいかに揺らぐかー。その恐れが、異例の退位に踏み切らせた可能性は高い。
 退位3日前となる先月25日、内部文書流出事件に関する報告書がベネディクト16世に提出された。報告書は、枢機卿に対してすら公開を禁じられた。読むことができるのはベネディクト16世と、近く行われるコンクラーベで選出される次期法王だけという。

(朝日新聞 2013-3-2)



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