もっと知りたい日本の名僧





■身近に感じる心のよりどころ
 50歳を超えた頃から、自分の中に仏教への関心が強くなってくるのを感じました。周囲に死が増え、それを現実の問題と受け止めようとすると、何か考える手がかりがほしくて、心が自然に向いていくのでしょうか。「もっと知りたい!」。そのまま今回のテーマになりました。

 1位の空海(弘法大師、774〜835)は現代人にも身近で、なじみの深い仏僧だろう。 四国お遍路で知られる八十八霊場は、空海ゆかりの修行の地だ。「四国の実家が真言宗であり、母の八十八ヵ所巡りについて行きました。霊場には空海の仏像や仏画が多くあり、温和な表情はなんともいえない安らぎを感じました」(愛媛、49歳男性)

 東北から九州まで、弘法大師の「開湯伝説」や「名水伝説」で知られる温泉、名水地が多くあり、庶民層への浸透の度合いを示している。さらに「弘法も筆の誤り」のことわざもあるように書の達人。最澄にあてた直筆の手紙「風信帖」はあまりにも有名だ。

 小説「空海の風景」(1975)で、最澄と対比させつつ空海を描いた司馬遠太郎は講演で、「日本の歴史がこれまでに持った最大の巨人で、真理そのものといったところがある」と評価している。その思想は、誰に対しても入り口は広く開かれているが、知るほどに、広がりと深さを感じる存在なのかもしれない。

 空海を創刊号特集として、2月に刊行された週刊朝日百科「仏教を歩く」は毎週、名僧の教えを中心に仏教を学ぶシリーズで、創刊号は12万部を超えた。10年ぶりの「改訂版」であることを考えれば、異例の売れ行きといえる。
 同誌の長島彩路チーフエディターは、「東日本大震災という未曽有の災厄を経て、日本人がこれまで心のよりどころにしていた仏教の存在を、改めて身近に感じた。仏教の教えや名僧たちの思想を、もっと深く知りたいと思う読者が多いのではと思います」と話す。

■情熱や使命感、鑑真への関心
 2位はやや意外にも思える結果だが、唐の僧・鑑真(688〜763)。「高校のときから、彼の出身地を訪れたいと思っている。数年前から中国関連の仕事もしているので、機会ができるのでは」(大阪、65歳男性)や、「視力を失っても使命を果たす、その潔さにひかれる。高潔なる意志をどうもちえたのか、インタビューできるならその志の原点を聞いてみたい」(東京、49歳女性)といった熱烈な意見も寄せられた。

 日中関係が良好とは言えない現在だからこそ、度重なる渡航失敗を乗り越えて来日し、日本社会のため尽くしたその生涯が関心を集めるのだろうか。ぽぽ同時代に生きた11位の行基(668〜749)にも、「社会事業への貢献など、現代の社会にも強く求められる分野での業績があり、宗教の世界にとどまらない活躍」(大阪、65歳男性)との評価があった。

 3位の親鷲(1173〜1262)は、何冊も著作を残した吉本降明、小説の形で人物像を描いた倉田百三、吉川英治、五木寛之ら、近現代の文学者の興味の的となってきた。「善人なをもて……」という悪人正機説の思想の斬新さ、解釈の多様さ故だろうか。
 4位の一休(1394〜1481)はとんちで、5位の西行(1118〜1190)は和歌で、よく知られる僧だ。

 「一体さんは子供の頃、漫画やTVドラマにも登場し、その賢さとユーモアのセンスに感嘆した。小さい子供にも、その徳が伝わってきた」(埼玉、70歳男性)
 西行はNHK大河ドラマ「平清盛」にも登場した。旅に生きた歌人の生涯には憧れに似た気持ちを抱くのかもしれない。「願はくは花の下にて春死なむそのきさらぎの望月のころ」はじめ、日本人の心性にぴったり来る歌が多い。

 「僧になろうと決心した一番の理由を、会って聞いてみたい人」と言うのは京都府の男性(69)。「案外あっけらかんと、『いやーたいした理由はありませんよ、好きな女に振られて、その当てつけです』なんてね」

※調査の方法
 朝日新聞デジタルの会員に登録していただいた方を対象に、3月上旬、ウェブサイトでアンケートを実施した。回答者は813人。週刊朝日百科「仏教を歩く」や『日本の仏教を築いた名僧たち』(山折哲雄、大角修編著)などを参考に、奈良時代から江戸時代までの名僧を34人リストアップ。「その思想や人生をもっと深く知りたいと思う僧」を、5人まで選んでもらった。

(朝日新聞 2013-3-30)



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