暴力とスポーツ……楽しむ米国と正反対



「親バカだけど、強豪野球チームで長男は将来有望と言われた。でも……」と東京都の母親は残念がる。
 小学3年になり、長男は練習日の朝食時に涙を流すようになった。練習を見に行くと、指導者は「何で今のボールで振るんだよ!」「おまえはもうクビだ!」と罵声を子供たちに浴びせていた。長男はのんびりとした弱小チームに移った。

 その後、米国人の夫の仕事で米国テキサス州に。長男は地元のリトルリーグに入った。そのシステムは、野球を楽しむ観点から実によくできていた。
 毎年、子供はトライアウトを受け、ドラフト会議で各チームから指名される。力を分散させ、試合を楽しくするためだ。1チームは10人。みんなが出られる。

 監督が活を入れる時は「おまえら、楽しんでいるか!」。ダラダラやっている子には「もう一度」とだけ言い、なぜやり直しになるかを考えさせる。「楽しくて仕方なく、ぐんぐん上達する長男を見て、これがスポーツの基本だと確信した」と母親は言う。

 1年後、東京に戻り、少年チームの練習を見学したが、怒鳴り声が飛び交うのを見て長男はひるみ、今はバスケットボールをやっている。「職場で否定的な言葉で怒鳴る上司がいたらパワハラで問題視される。なぜスポーツだけ野蛮な言動が許されるのか」。米国のスポーツ観とのギャップを感じざるを得ない。

 千葉県のスポーツ施設で働く大西正裕さん(25)は体育系学部を持つ大学の出身。多くの卒業生が保健体育教師と部活動顧問になる体育系学部を持つ大学の在り方が、大阪・桜目高バスケット部顧問の暴力事件の背景にあると感じる。
 「保健体育の教職課程に必要な実技の単位は、設定された記録や技をクリアすることでもらえる。体を動かして指導の引き出しを増やす考え方。指導知識も、トレーニング方法や運動生理など競技力のための方法論がメーンで、部活動の運営法や子供への指導法を学ぶ機会は少なかった」

 「その結果、部活指導は自分の経験に頼る方法になり、暴力的な指導を受けていれば、それを繰り返す負の循環になる。また、高校まで勝利を味わってきた学生が多いため勝利至上主義に走りがちになる」
 大西さんは社会人クラブチームを作っている。いずれキッズ部門を作り、遊びながら運動能力を上げるプログラムを志す。

(朝日新聞 2013-4-14)



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