なぜ八幡神社が日本でいちばん多いのか 島田裕巳(幻冬舎新書)



 安倍首相の靖国参拝が物議を醸しつつある昨今、本書を通じであらためて「神道」を知りたい、という人も多いのだろう。無宗教と言われつつも、私たちはお祓いや七五三、結婚式や地鎮祭など、日常的に神道に接している。にもかかわらず、どこの神社にどんな神が祀られているかを気にかけることはほとんどない。

 日本には現在、8万6440社の神社があるとされる(文化庁編『宗教年鑑2010年版』)。中でも飛び抜けて多いのが八幡神社で、7817社ある。本書はその謎に迫るとともに、天神、稲荷、伊勢、出雲など、いくつかのメジャーな神社の系統についてのコンパクトな解説書にもなっている。

 本書に記された神々の出自を知るにつけ、神道の柔軟性や雑食性、その結果としての複雑性に驚かされる。とりわけ祭神の多くが、「記紀神話」に登場しない神々である点は興味深い。

 たとえば八幡神は、もともと新羅から渡来した外来の神がルーツであるという。神仏習合によって弥勒菩薩と合体し八幡大菩薩となり、さらに応神天皇と習合して皇祖神の地位も獲得、武神として武家の信仰を集めながら庶民層にも浸透し、日本の宗教世界の基軸となっていく。この「全部入り」めいたお得感こそが、八幡様を一番人気の神にしたのだ。

 著者によれば、神道には「教え」がない。開祖も教典も教義もない。もともとは神社も存在しなかったが、神社はあってもご神体がない。つまり神道には、様式だけがあって、「中空構造」なのだ。だからこそ死者が、山が、ときには仏までが神となりうるし、その御利益は国体の護持からヤンキー文化にまで及ぶのだろう。あらためて、「メタ宗教としての神道」に思いを馳せたくなった。
(斎藤 環:精神科医)

(朝日新聞 2014-3-2)



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